ある松屋で

 昨日のこと。午前に大学へ行き、昼からバイトに行って、夕方に家へ帰ったらすっかり疲れてしまった。眠さと疲れが共にあり、コーヒーを飲むなどして目を覚ましたところで体力がもたない感じがしたので着替えてベッドへ寝転がった。本を読んでいると自然と眠りに落ちた。
 目を覚ますと20時頃。食材が無く、相変わらず疲労感があるので夕飯は外でとることにする。椅子に座ってどこで食べようか考えていると、気づけば半分眠ったような状態になっていた。気を取り直してもう一度考え始めるが、僕の自宅の近辺には良い飲食店が無いのでなかなか決まらない。少し自転車を走らせれば選択肢はかなり広がるものの疲れているのでそれは避けたい。決めかねているうちにどんどんと億劫さや怠さが強まり、次第に食事に関係のない日頃の細々とした憂鬱な出来事が頭に浮かぶようになり精神が下降していくのを感じた。これはまずいと思い、ひとまず頭の中の諸々を振り払い着替えて外へ出た。外へ向かう途中、松屋のごろごろチキンカレーのことを思い出した。前から美味いという評判は聞いていたがなんだかんだで食べ逃してきた。5月初頭で一旦終了するはずなので、この機に食べに行こうかと思ったが最寄りの松屋はそこそこ遠いのでパス。とりあえず当てもなく歩きはじめる。
 外の空気を吸うとさっきまでの憂鬱さが少し軽くなった。歩きながら何故こんなに気力が無いのかを考えた。もちろん今日は普段より忙しく単に疲れているというのはあるが、実のところここ数日気分が優れない。原因として思い当たるのは最近友人とあまり関わってない、バイトが増えた、学振の書類を書くのが大変などいくつかある。他にも将来に対する漠然とした不安感や、天候、運動不足も関係しているかもしれない。いずれにせよ明確に原因を特定できるわけでも無いし、要因が分かったところでどうこうできるわけでもない。こういうときは走って高揚感を得たり、温泉に入ってリラックスしたりして気を紛らわせるのが良いような気がするが靴も服も走るには少し厳しい。こんなことをもやもや考えながら歩いていると、自宅から遠ざかる方向に30分ほど歩き続けていた。帰りのことを考えるとそろそろ店を決めたい。しばらくして王将を見つける。ちょっと迷ったが決定打に欠けるため、ひとまず保留にし、もう少し歩いて何もなかったらここにすることにした。それですこし行くと松屋が視界に現れた。思わず心の中で「待ってたよ。」と呟いた。
 ごろごろチキンカレーを注文し席に着く。客は僕を含め3人で全員1人で来ている。すぐに1人は退店した。もう1人の客と店員は知り合いらしく親しげに会話をしている。雰囲気的に大学の友人といったところだろう。カレーを待っている間に5人組の客が入ってきた。言葉の感じからして恐らく全員中国人。うち2人は4、5歳くらいの子供で入店するなり大きな声を出してちょろちょろと動き回る。親の1人は券売機を操作しているがなかなか注文が終わらない。見たところ困っている様子ではなく、単にゆっくりと選んでいるという感じ。ときおり券売機の方を向いたまま大声でなにかを喋るがそれが独り言なのか他の人に対して発声しているのかは分からない。
 しばらくしてカレーが来た。結構美味しい。松屋のカレーは以前食べた際、カルダモンの香りとコリアンダー系のヒリヒリとする感じが強いという印象であまり好みでは無かったため長らく食べていなかった。しかし改めて食べるとそんなに尖った感じはなく美味しい。チキンは本当にごろごろ入っていて食べ応えがある。ただぐにゅぐにゅとした食感が強いのは少し気になった。僕がカレーを食べ始めても依然として件の客は券売機を操作し続けており、時折大きな声を出す。結局10分近く操作していたが、その間店員は特に気に留める様子もなく客と喋っていた。なんとも雑然とした雰囲気だが、店員はちゃんと仕事をしているし、券売機の客も後ろに人が待っているわけでも無い。つまり特段誰にも迷惑をかけておらず各々が自由に振る舞っている。これを見ているとカレーが思いのほか美味かったのもあり安らかな気持ちになった。食べ終えて店を出るころには憂鬱な気分はほぼ無くなり、落ち着いた気分で淡々と歩いて帰った。