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「~しかない」という言い回し

 「~しかない」という言い回しを聞くことがある。「財布に100円しかない」や「徒歩で行くしかない」などは何の変哲もない言葉遣いだが、少し風変りな使い方として「彼には感謝しかない」とか「あの件に関して、あいつには怒りしかない」というようなものがある。僕の経験上では、後者の用法は「とても~だ」という内容を言い表すときに用いられる。つまり、「彼には感謝しかない」は「彼にはとても感謝している」という意味で、「あの件に関して、あいつには怒りしかない」は「あの件に関して、あいつにはとても腹が立っている」という意味で使われているように思う。
 僕は後者の用法があまり好きではない。それは、これが何故「とても~だ」という意味を表すのか理解できないからだ。別に「感謝」や「怒り」といった実体の無いものに対して、在るとか無いとか言われてもよく分からないという意味で理解できないと言っている訳ではない。例えば「僕の心は彼への感謝でいっぱいだった」という文は「感謝の多寡」という不明瞭なことに言及しているが「感謝でいっぱい」→「感謝の程度が大きい」→「とても感謝している」という類推から特に引っかかりなく理解できる。しかし「感謝しかない」と言われても、せいぜい「感謝の気持ちがあり、それ以外の気持ちは無い」という意味にしか解釈できず、とても「甚だしく感謝している」という意味とは思えない。そのため、この言い回しを聞くといつも「これは『とても~だ』という意味で言っているのだな」という翻訳を脳内ですることになる。それが面倒ということは全くないけれど、僕はこの言い回しを機械的に「とても~だ」という意味に対応させる事しか出来ないので、含蓄の無い表現としてしか受け取れず、つまらない思いをする。