映画 ヒーローマニア 生活 感想1

 映画『ヒーローマニア』を見た。原作である福満しげゆきの『生活』は以前に読んだことがあり、面白かったので、映画化されるなら是非観たいと思い観に行った。
 それで、観た感想だけれども、面白くなかった。上映中にいつ終わるのかと待ち遠しくなるほどだった。面白いと思えなかった理由について考えたところ、
・ストーリーの粗さ
・ギャグのセンス
・ストーリーの改変
という3点思い当たった。一つずつ見ていく。以下は映画の内容に踏み込んで記述するので、ネタバレを気にする人は注意。
長くなったので、まず1点目の「ストーリーの粗さ」についてのみ投稿する。

ストーリーの粗さ

 詳しくは3点目の「ストーリーの改変」で記述するけれども、映画のストーリーは原作とは大きく異なっている。原作と比較しての意見は3点目に述べるとして、ここでは映画のストーリー単体に対する意見を述べる。ストーリーの粗さについては、展開の雑さと内容の雑さの2点を述べる。
 まず、展開の雑さについて。ご都合主義的な展開や説明不足、意味不明な展開がいくつもあった。
 具体例を挙げる。

  1. 中津と土志田がチームを組んですぐの頃に、ホームレスをいじめているヤンキー軍団と戦うシーンがある。途中から日下が入ってきてヤンキーを次々と倒し、中津と土志田も日下にやられるかと思ったら、シーンが変わり日下が中津と土志田に説教し、その後3人でオロナミンCを飲んでいい感じの雰囲気になるという場面がある。ここで何故、中津と土志田が金づちで殴られるのを免れえたのかが不明瞭。
  2. 吊るし魔もそろそろ潮時という雰囲気が、吊るし魔のメンバー内に流れ始めた時に日下が奥の手的な雰囲気を出して、以前助けたホームレスのところにメンバーを連れて行き、吊るし魔を法人化することを提案し、中津がそれに応じるシーンがある。急に法人化を持ちかけられて、渋っていたのに、チョロッと話して、その場で承諾というのはあまりに幼稚な展開に映る。
  3. 日下がレインコートを着た人に襲われ包丁で刺され倒れているところを中津が見つけ、おどおどしつつ介抱しているところを土志田と警備会社の何人かが発見するシーンがある。その際、何故か警備会社の社員は「中津さんがやったのか」的な発言をして、中津を捕らえるが何をもってそのような判断をしたのかよくわからない。どうみても介抱しているようにしか見えないが。中津がすぐに救急車を呼ばないのもよくわからないし、誰も救急車を呼ぼうとしないのも謎。
  4. 中津が、吊るされようとしているジャーナリストを助けた際に、中津を責めていた土志田が、その少し後の中津が下剤を注入されそうになっているシーンでは急に中津を助けるのは唐突に感じる。特に土志田が警備会社の行っていることに対して疑問を持ったり、苦悩しているシーンはなかったはず。
  5. 終盤のおかっぱのおばさんと商店街で戦うシーンで、何度も金づちで殴っても倒せなかったのに、急に金属製のヨーヨーで叩いたら倒せるのはご都合主義的に感じる。

 他にも似たような雑な展開が多く、ストーリーありきで、薄弱な根拠付けで場面を強引に結んでいるという印象を何度も受けた。このような雑な展開が多いと、そもそもこの映画は細かいことは気にせずドタバタ劇として見るのが正解なのではないかとも思ったが、それにしては中津の横領や、おかっぱのおばさんに対する警備会社の社員らによるいじめといった、笑えないどころか胸糞の悪い場面もあり、頭を空っぽにして楽しむというわけにもいかない。
 次に、内容の雑さについて。まず前提としてこの映画の舞台は現実世界であり、超現実的な設定はないので、映画内の世界に対しても現実世界と同様の物理法則、社会制度、常識を想定するのが自然であることを確認しておく。その上で、ある程度の現実世界のルールの無視は、娯楽作品においては面白さを優先する際には認めるべきだとは思う。そのため、吊るし魔や若者殴り魔が警察に捕まらないのは、明らかにおかしくはあるのだけれど、認められるレベルだと考える。しかし、終盤のストーリーはあまりにも酷い。終盤のストーリーを大まかにまとめると次のようになる。

中津、警備会社をクビになる

中津、街中で警備会社の社員にボコボコにされるが日下に助けられる

日下、レインコートの人に刺される

中津、瀕死の日下を発見し介抱しているところを、土志田と警備会社の社員に見つかり捕まる

中津、警備会社に捕まり口止めのために辱めを受けそうになるが、土志田が中津側に翻り、社長に下剤を注入し中津とともに逃げる

寺沢、社長室の金庫を開け、金を盗む

中津と土志田の下にレインコートの男が来て戦いになる

中津と土志田、やられかけるがオカッパのおばさんが上から降ってきてレインコートの男はやられ、オカッパのおばさんとの戦いになる

中津と土志田、やられかけるが、寺沢が背後から金属製のヨーヨーをぶつけて倒す

警備会社は倒産し、社長はホームレスに戻り、中津は再びコンビニ店員に、土志田はニートに戻る。寺沢は防犯グッズの会社を立ち上げ儲ける。

中津、コンビニで迷惑行為をしている人たちに声掛けをしてやめさせる。

終わり

 映画内での雰囲気としては結局のところ中津は元の生活に戻ったけれど、土志田という仲間ができ、迷惑行為をしている人たちに声をかけてやめさせることができるようになって成長したという風になっている。しかし、中津は後半以降、会社から弾き出されたり、殺人の罪をかぶせられそうになったり、刺客に襲われたりしたものの、何とか乗り切っていたら、その間に会社がつぶれて、結果的に元の生活に戻っただけである。中津は何も成し遂げておらず、状況に振り回されていただけで成長するタイミングなど無い。これも十分に酷いが、何よりも酷いのは寺沢に関してだ。何故か簡単に会社の金庫を開け、金を盗み、盗んだ金で起業して儲ける。そして、映画内で特にそれを非難する調子でもないし、罪に問われる様子もない。あまりの現実感の無さに白ける。また、日下の死亡に対しても、それを中津が悲しみ泣く場面はあるけれども、ただ悲しむだけでなく他の吊るし魔の3人が自らの責任に思い悩むような場面がないのも疑問である。中津と土志田のちょっとした成長なんかよりもよっぽど重大に思えるのだけれど。