暑い夏

 7月が春夏秋冬のどれに当てはまるかといえば間違いなく夏だ。体感としてもここ一週間の暑さはもの凄い。
 例年少なくとも9月下旬までは暑かった記憶があるので、暑さのピークが夏と呼びうる期間の真ん中に来るとすれば今後一層暑くなる。初夏の頃も暑いとは感じたが屋内や日陰にいれば心地よく過ごすことができ、日向に出て何かをすると汗をかくもののうんざりするほどではなかった。むしろ体温の上昇に伴う高揚感のほうが大きかったような気がする。また初夏の頃には春先に播種した植物が勢い良く育ち、成長の止まっていた樹木が新芽を伸ばすのも気分が良い。

 数年前からバイマックルー(コブミカン)を育てている。これの葉はタイ料理においてスパイスとして使われ、僕もその用途で使うことを想定して苗を買い、育て、何度か料理に用いてみた。しかし中々思うような料理が作れず、レモングラスやカーといった他のフレッシュなハーブやスパイスと組み合わせることが必要だという結論に至り、あまり用いなくなった。
 こういう訳で僕にとってバイマックルーの実用性はほぼ無いのだが、それでも大量の新芽を出し、それが数日のうちに立派な葉をつけた枝に成長するのを見ると嬉しくなる。昨年までは自覚していなかったことだが、収穫を目的とした栽培でなくとも自分の手をかけた植物が大きくなっていくのを見るのは精神衛生上プラスの効果がある。
 ただその喜びも猛烈な暑さには敵わない。初夏の頃には「植物も成長しているし自分も頑張るぞ」というような、改めて書くと多少アホっぽい感じもするが、そういうポジティブな関係を植物との間に築いていた。

 最近はもう本当に暑い。雨もほとんどなく日が落ちるまでずっと単調に暑い。睡眠の質が落ちている感じがするし、日中の活力も低く、怠ける時間が増えている。窓に目を向けると、窓の外側の落下防止柵にかけたパクチーとバジルの鉢が見える。日光を浴びながら微風に揺れているその様子はかつてなら「今まさに光合成しているのだ」という感慨とともに生命力の象徴として目に映り、喜びをもたらしたのかもしれない。しかし今感じるのは「植物でさえ光合成しているのに自分は何をだらだらしているのだ」という卑屈な感情で、改めて暑さの威力は侮れない。