盛りすぎだろう

 今日は夕食を外で食べることにしていた。他の人と一緒に食べる予定があったわけではなく、店を決めていたわけでもないが、自分で作らないことだけ決めていた。19時頃から腹は減っていたが、踏ん切りがつかずズルズルと先延ばしにしているうちに21時前になっていた。この時間になると開いている店が少なくなってくるが、ともかく外に出た。外はかなり寒い。あまりにも寒いのでさっさと済ませたいところだが、僕の家の近辺にはあまり良い飲食店がない。遠くまで行く決心はつかないものの止まっていても寒いので適当に歩いていた。すると次第に身体が温まってきて、それに伴い少し気分も揚がってきたので、散歩がてら少し遠くまで足を伸ばしてみることにした。とりあえず繁華街の方へ行ってみたが金曜の夜なので人が多く、面倒くさそうなので引き返した。普段あまり通らない道を歩きながら自宅の方へと戻ったが、その道中でも入りたい店は無い。結局30分ほど歩き回り自宅の付近まで戻った。この時すでに21時半近くになっていて、もう店を選んでもいられないので近所のとあるカレーチェーン店に入った。
 このカレー屋に来たのは2回目で1回目は恐らく3年前になる。再訪していない理由は一重にそれほど美味しくなかったからだが、こうも時間が経つとどの程度美味しくなかったかはもうわからない。確実なのは不味くはなかったということぐらいだ。メニューを見て、スタンダードっぽい雰囲気の漂うビーフカレーを注文する。カレーが来るまでの間にメニューを見ていると、この店のカレーがいかにこだわって作られているかを記したページがある。この店の来歴や使っている多数のスパイスの一覧、そして健康への配慮など。読んでいると期待が高まってくる記述だった。過去の否定的な記憶にも関わらず、これからどんな豊かな味わいのカレーが来るのかと待ち遠しくなるほどだった。
 カレーが来た。早速1口目を口に運ぶ。舌に意識を向けて芳醇な味わいを探す、がすぐに探し終わる。そんなものは無い。あるのは非常に没個性的な味だけだ。しかし没個性的であるという点に関しては頭抜けていた。「カレー以前」というとしっくりくる。いやそんなにしっくりは来ないが多少は表現できているかもしれない。確かにスパイスの香りは感じるし、ベースに野菜や肉のうま味があるのはわかる。ただあまりにも特徴が無く、あと一歩何らかの方向に踏み出すことで様々なカレーとして成り立つような万能性は感じるものの、これ自体ではまだカレーとは言えないような味がした。例えて言うならだし汁に塩を入れて飲んでいる感じに近い。
 こうなるとあのメニューはどうなんだという気になってくる。大口を叩いているんじゃないかと言いたくなってくる。味覚に個人差はあれど誇大であることは恐らく揺るがないだろう。自店の料理をメニューで美味そうに語るのは悪いことではないが限度がある。食べる方だってそこら辺のチェーン店にそれほど期待しているわけでは無い。そこそこ美味ければ十分だ。なのに予想を超えた美味さがあるみたいなことを書かれるとやっぱり期待してしまう。先入観で補正がかかって結果的に満足度が上がるのであればまだ良いが、出てくるのがあのストイックなカレーではギャップに気づかざるを得ない。