川の中の鳥

 今日は12時頃に起きた。前日の寝不足のために爆睡してしまった。お腹が空いていたから昨日パン屋で買っておいたフォカッチャをレンジで温めて食べた。外は雨が降っていて、そのせいか少し頭がぼんやりとしていた。この状態で本を読んだり、パソコンを見たりしても集中できないため、目覚ましのため少し散歩することにした。
 雨はそれほど強くはなく、傘をさしていれば問題なく歩けた。目的地も定めず適当に歩いていると鴨川の近くに着いた。河川敷を見るとそれほどぬかるんでいなかったので、そこを歩くことにした。
 しばらく歩いていると、川の中に1人の女性がいた。彼女の事を以下「カワ」と呼ぶことにする。そのあたりの水深は雨で多少増水しているとはいえ足首が浸かるぐらいの深さで特に危険は無い。カワの前方1m程のところに白い水鳥がいて、カワはその鳥を追いかけていた。鳥の大きさは体積で言うと10㎏の米袋ぐらい。そこそこ大きい。鳥はすぐにカワに捕まった。カワは鳥が動かないように体を抑えた。カワはそれからどうするわけでもなく体を抑え続けていた。しばらくの膠着状態の後、カワは手を放し、鳥は逃げるようにカワから離れた。すると再びカワは鳥を追いかける。
 この間僕は河川敷を歩きながらこの光景を横目で見ていた。カワの行動が何を意図するものなのかが分からないため始終を見届けようと思ったが、僕が立ち止まって凝視し、もしそれにカワが気づいた場合、カワの中に恥じらいや不安が生じ、本来取りたかった行動を中止してしまうかもしれないと考えた。そこで僕は無関心な通行人を装うことにした。周りを見ると、他にもカワの行動を見ている人が2人いた。1人は川の向こう岸にいて、もう1人は近くの橋の上から見下ろしていた。後者の人はカッパを着て、自転車にまたがったままカワを見ていたので「ジテンシャ」と呼ぶことにする。この2人は見るからにカワを凝視していたが、カワの方は特に周囲を気にする様子もなく淡々と鳥を追いかけていた。そのため今更僕が通行人を装っても意味が無いような気がしたが、念のためということでそうすることにした。通行人のフリをするには歩き続けなければいけないわけで、単に直進し続けていると通り過ぎてしまう。カワの近くにいる時間を少しでも長くするために、カワの近くを過ぎたあたりで河川敷から上がり、近くにある橋を渡りながら様子をうかがうことにした。
 鳥はカワから逃げる途中、少し飛ぶのだが、高度は水面からわずかに浮かび上がる程度で、飛翔距離も2,3mほど。すぐに着水する。この様子から、この鳥は負傷しているのではないかとも思ったが、知識が乏しいために判断はつかない。カワと鳥との距離は常に2m未満ぐらいで、鳥が捕まるのは時間の問題だった。
 僕が河川敷を上るため少し目を離している間に、鳥は川岸の斜面まで追い込まれ、そこで捕まっていた。そのまましばらく膠着状態が続く。僕の歩行が橋の中腹に達する頃、同じ橋の上にいたジテンシャがカワに向けて声を上げる。「大丈夫ですか!」カワはジテンシャの声に気づき、何か言っているが聞こえない。川沿いの道路を走る車の音と、水が流れる音が騒がしいためだ。かろうじて聞き取れる会話の断片を聞く限りではカワとジテンシャはあまり話がかみ合っていない様子だった。
 結局、僕が橋を渡っている間に特に動きは無く、その先どうなったかは知らない。