暑いがつらくはない

 昨日今日と暑い。前に誰かが「体温を超える気温になると一気につらくなる」というようなことを言っていた。母だったような気がする。特に根拠は言っていなかったと思うが、科学的根拠のありそうな雰囲気がして強い説得力を感じた。
 今のところ気温は体温を超えていない。それでも日によって暑さに対する身体の反応は異なる。その反応は必ずしも苦しみを伴うものでは無い。暑さにも不快なものと快いものがある。
 不快な暑さというのは、常に暑さを感じるほどではないがじっと座っていると尻のところに汗をかいたり、体の表面がベタベタしてくるような暑さ。好ましい暑さとは、常にジリジリと熱を感じ、じっとしていても首元から汗が流れるような暑さ。この後者の暑さはとにかく暑く、気づけば「あちー」などと口走ったりするほどだが、気持ちよさもある。全身に血流が巡る感じというか少しハイになる感じがする。
 過去に友人にこのことを話したところ「ちょっとわかるかも」というような曖昧な同意を得た。1人の友人にしか話したことがないので、これを普遍化するのは明らかに軽率だが、恐らく多くの人も認めることだと思っている。
 しかしそうは思っていても、他人が「暑いねー」と言えばこれは「暑くてつらい」というニュアンスで言ってるのだと僕は受け取る。日常会話で「暑い」という言葉が肯定的な文脈で用いられることがほとんどないからだ。多くの人が潜在的に「暑い、そしてそれがいい」という言説に同意する素地を(恐らく)持っているのに、それを明確に意識する機会がないばかりに「暑さ」は厄介だというニュアンスで用いられ続け、そのニュアンスで用いる人を再生産している。
 とはいえ現状に一石を投じようと、相手の「暑いねー」に対して「暑くていいね」などと返せば、相手から問いただされるか、自己主張の強い面倒な奴だと思われるだけだろう。前者の対応ならまだましだが、それでも「暑さの話題」などという不毛なものに費やす時間が増えてしまう。
 「暑いねー」という人は暑さの話をしようとしているわけでは無い。ほとんどは特に何の考えもなく、暑いから「暑い」と言っている(多分)。だから相手が「暑いねー」と言ったタイミングで暑さのニュアンスについての話をするのは上手くない。では適したタイミングはいつか。それはわからない。