良いお年を

 少し前に忘年会という名目で友人らと寿司を食べた。店を出た後にこのまま帰るのもあれだろうと、近くの店に入るなり何かしようという話になったが良い案は出ない。食欲の赴くまま食べ続けたために皆ほとんど満腹状態で、ファミレスや喫茶店といった飲食関係はなし。

 そのうち近くのラウンドワンに行くのはどうかと声が上がる。行って何をするのだと問うと、それへの答えはない。決めかねて無為な時間を過ごすうち、結局ひとまずラウンドワンへ向かう流れになった。向かう道中でボウリングでもやるかと誰かが言いだす。流石に無為が過ぎるだろうと感じつつも、現状漫然とラウンドワンに向っていることを考えれば、むしろ無為を噛みしめるためにはボウリングほどふさわしいものはないという達観したような考えが浮かび、消極的な同意を示しつつ足を進めた。

 

 ボウリングなど何年振りかわからない。球を選び、コツをスマホで調べ、ゲームを始める。一投毎に動きを意識し、少しずつ想像と実際の動きを擦り合わせる。この作業はかつてやっていた円盤投げに通ずるものがあり楽しい。筋力が無いと思うような動きができないところも似ている。他人の投球の結果に逐一リアクションするのも、軽薄と言いうるものではあるが、しかしやってみれば案外悪く無いものだった。

 総じてかなり楽しんだ。事前に抱いていた気取った考えは打ち砕かれ、ボウリングそれ自体を満喫した。もっとボウリングのようなことをやっていかなくてはならないとさえ感じた。

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 週に一回会う人がいて、今日は今年最後の機会だった。別れ際に今年はこれで最後ですねという会話をし、それじゃと足を踏み出そうというときに相手がよいお年をと言った。そういえばこういうときに言う言葉だよなと思いつつ、こちらもよいお年をと返した。

 この言葉は自分からは言わない。何というか「髪切った?」とか「平成最後の~」とかの言葉と同じで、言っても言わなくても世界が一切の変更を受けない言葉のような気がするからだ。

 しかし実際言ってみると、存外悪くない。言うや否や自分の中に今年ももう終わるのだなという言葉のままそれ以上も以下もない感情が芽生えて、しかしそれは心地いいものだった。もっとこういうことを言っていかなくてはならない。

みかん

 先ほど食事を終えて一息ついているとき、ふと周りを見るとみかんの入った袋が見えた。少し前にスーパーで買ったものだ。食後のこのタイミング、デザートのような感じでみかんを食べるのはありだと思ったが、しかし強く惹きつけられる感じでもない。ともかく袋に手を伸ばしみかんを一つ取り、食べる。間違いなく美味いし満足感もある。続けてもう一つ食べた。
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 みかんに限った話ではないが、きっかけがないと意識にのぼらない食べ物、料理がある。例えば卯の花の煮物、いんげん胡麻和え。これらはスーパーで材料を見かけたら作ろうと思い立つこともあるし、食卓に上れば喜んで食べる。しかし今日何食べようかというときにこれらが意識にのぼることは中々ない。ただこれらの料理は、おかずが食事にほぼ必須であるという都合上、献立を考える際に毎回意識されるチャンスがある。一方、みかんにはそれがない。
 またみかんがどのような名目で食べられるのかもはっきりしない。今回はデザートとして食べたが、みかんにデザートの名を負えるほどのスペシャル感はない。大抵は今回のように不意に視界に入って食べたくなるだとか、何か食べるものはないかと探した時に見つけて食べるというように消極的にみかんに至るという感じだろう。

 少し前のこと。就寝前の歯磨きをしていた。鏡の前にいると常に口をすすぐか否かを問われている気分になり、早々に歯磨きを終えてしまいがちなので、磨く間は他の場所へ移動する。その日は外の空気を吸おうと屋上へと昇った。時間は深夜近く、少しだけ風が吹いていて涼しい。
 普段より辺りが明るい気がする。月に目を向けると満月かほぼ満月というぐらい丸い。このことから周囲の明るさは月によるものだと推測するものの、これまでに月の明るさをはっきりと意識したことがないため確証はない。むしろこれまでに月の明るさを意識する経験がないという事実は月明かりの強度は大したものではないということの弱い証拠であるような気もする。そもそも本当に普段より明るいのかさえ確かではないが。
 屋上の縁の柵に目を向けると割合はっきりと影ができている。周囲に照明はあるが、その向きに影を作るものは見当たらない。そして月によるものとすると自然な向きだ。ひとまず月による明るさだと認めることにした。

 月に見ていると不意に「綺麗だな」という言葉が心に浮かんだが、直後に「本当に綺麗だろうか」という疑念、より具体的には「満月は一般に綺麗なものとして扱われることが多いため、それに釣られているだけではないか」という疑念が浮かんだ。他人がこういうことを言い出したら面倒な奴だと思うし、綺麗かどうかなど論理的に帰結されるものでもないので無駄な問いだとは思うものの、不意に生じた綺麗だという感覚があまりに頼りなく、問わずにはいられなかった。
 検証するような気持ちで月を見る。見れば見るほど表面に濃淡があるだけの光る円だ。取るに足らない感じもするが、じっと見ていても不思議と退屈しない。結論としてはまあまあ綺麗というところに落ち着いた。

 翌日googleのトップ画像を見るとお月見の絵になっており、今日が中秋の名月であることを知る。こうなると昨日が実際明るかったことへの真実味が増す。今日も深夜に見に行くことにした。
 午前1時頃にベッドに入るときまで忘れていたが、思い出して屋上へと向かった。屋上に出ると小雨がパラパラと振り、空一面曇っていた。当然月は見えなかった。

 その数日後にやはり満月とはいかないまでも結構丸い月を見たが、それほど綺麗だとは思わなかった。このときは雲がほとんどなく、前に見た時は月を囲むように薄い雲が浮かんでいた。どうもこの差が効いているらしい。つまり月単体では物足りないが、周りの雲があるといい感じにバランスが取れるというような。

マレーシア記 4日目

 7時頃起床。コタバルへの飛行機は10時5分発。国内線なので搭乗手続きにそこまで時間がかからないだろうと考え、9時過ぎに空港へ着いておく予定にする。KLセントラル近くのリトルインディアを見ておきたかったのでKLセントラルまではすぐに来ておいた。着いたのは7時半。駅でKLIAエクスプレスの時刻表を確認し、8時45分発、9時18分着のに乗ることにする。駅からしばらく歩きリトルインディア周辺まで行くが、まだ朝が早いからなのかシャッターの下りている店が多い。しばらく探すと開いている飲食店をいくつか見つけた。そのうちの1つに入ろうとするが外から眺めてもどのような感じで注文するのかがわからない。メニューを見て注文する感じでなくプレートに盛り付けてそれをカウンターに持っていき払うというような雰囲気ではあるが確信はもてない。慌ただしく客が出入りしているので店員に尋ねるのも迷惑な気がして、他の店をあたるが、そちらも同様に注文の形式がつかめない。このように逡巡しているうち時間の余裕がそれほどなくなってきたので諦めて帰ろうかと思いつつ歩いていると普通にメニューを見て注文する形式の店を見つけ、そこに入った。イドゥリとお茶を頼んだ。イドゥリを食べたのは初めてだが美味かった。サンバルとココナッツチャツネがついてきて、それを指でぐちゃぐちゃと混ぜて食べた。
 食べ終えて駅へと向かうが徐々に間に合うか瀬戸際の時間であることが判ってくる。足早に、時には小走りも交えつつ駅へと向かう。駅にはなんとか間に合いそうな時間に着いたが、構内で道を間違え予定していた電車を逃してしまった。次のに乗ると着くのは9時33分。搭乗ゲートは出発の20分前つまり9時45分には閉まる。これは思ったよりもやばい気がしてきた。とにかく駅に到着してから最短で搭乗口まで行けるよう電車の待ち時間と乗車時間を使って調べる。ターミナル内の移動手順や搭乗ゲートの場所は頭に入れた。昨日のうちにWebチェックインは済ませてあるので、不確定要素なのは荷物検査だが、これはもう運次第だ。電車が着く数分前からドアの前に立ち、リュックの紐をきつめに締め体に密着させ走りやすくした。そして恥じらいを捨ててとにかく出来る限り走るのだとマインドセットをした。出発20分前に着けるかは結構怪しいが搭乗がもたつくかもしれないし、数分の遅れなら大目に見てもらえる可能性もある。電車はほぼ時間通りに着いた。ドアが開くと同時に走りだす。予習の成果もあり迷わずにターミナル内を移動できた。また荷物検査も待ち時間1分ほどで済んだ。この時点で間に合うような気がしてきたが1つのイレギュラーで容易に無くなりうる余裕しかないので気は抜けない。次は搭乗口まで走る。搭乗口は端から2番目なのでかなり遠い。リュックをきつめに締めているので多少呼吸がしづらく息が切れて途中歩いたが9時41分に着いた。半ば無理かもしれないと思っていたので強い安堵を感じた。無事乗れた。

 飛行機がコタバルへ近づき地上が見え始めるとクアラルンプール周辺との違いに驚いた。地面の大部分は濃い緑で覆われており泥の色をした太く長い川が見える。ただし川と判別できるのは周囲の環境からして川以外ではありえないからであって、流れを感じさせず透明感がないため、それのみではのっぺりとした茶色の帯状のものにしか見えない。また地面を蔽う緑は椰子の木めいた木の葉によるもので南国のような雰囲気がある。
 到着して飛行機を降りたあたりで再び飛行機に乗るまでのドタバタを思い出し、またそれによる疲労もあり一休みしたい気分になった。空港内のカフェでケバブラップのようなものとコーヒーを摂った。
 コタバルに来たものの特に目当ての物があるわけではないので、地図を見て町の中心部らしき場所へと向かう。Grabを使った。適当に場所を指定したので下りた地点の周りは特に何もなかった。そこから適当に歩くと広い道路があったがほとんど車もバイクも走っていない。その開けた道路の脇には風で寄せられた紙、ビニールなどのゴミが散らばっている。この日は中々暑く、この空漠とした道路を歩いているとコタバルは暑くて何もないハードボイルドな土地なのだという感じがして来た。実際には全くそんなことはなかったが。自覚のなかったことだが、どうやら僕は初めて行く土地の印象をドラマティックに捉えたがる傾向があるらしい。
 ともかくその近辺はあまり何もないので改めて地図を見てセントラルマーケットという場所へ向かった。このマーケットはクアラルンプールやチョウキットよりも落ち着いたマーケットで生活感があった。果物、鶏、米、野菜、手作りのお菓子、おもちゃなど色々売っている。何となくアウェイ感があり、店員と目が合わないようにチラチラ見ながら何も買わずに一回りした。何か冷たい飲み物を売る店があれば買おうかと思ったがないので自販機で豆乳を買った。この自販機は日本の物を流用しているようでお札の投入口には1000と書かれているし注意書きも日本語で書かれている。そして何故か側面には漫画フェアリーテイルのプリントがされていた。逆側にはアメコミのプリント。豆乳を飲むと少し落ち着き景色がはっきり見えてくるような気がした。クアラルンプールのチャイナタウンのときもそうだったが何か一つ買うと気持ちが落ち着いてくる。もう一度マーケットをじっくりと回ることにした。ある果物屋を見ていると店主のおばさんがロンガンを1つ試食させてくれた。続けてロンコン、マンゴーも試食させてくれた。ロンガンと見たことのない果物があったのでそれを買った。ドリアンなんとかという名前らしい。後半は聞き取れなかった。ドリアンのような味がするのかと尋ねると、違うとのこと。おまけでロンコンを1房くれた。それを持って歩いていると別の果物屋が声をかけてきてランブータンを指さし続いて指を3本立てる。3RM ということらしい。無愛想で何故当然こちらが買うような態度なのかは不思議だったが先の店ではランブータンが無かったので買うことにする。果物が透けて見える袋を持ち歩いていると次々呼び止められる可能性があると考え、手頃な手提げ袋を売っていないかかとマーケットを軽く見て回るが無い。マーケットは3階まであるようだったが上の階にのぼっていくのが女性ばかりだったため、男子禁制であったり、奇異な目で見られる可能性があったりするかもしれないと考え行かなかった。
 別の場所に行こうと歩いているとコタバルに来てから見ていなかったセブンイレブンを見つける。水を買って外に出ると外から見える位置にセブンのロゴのついた不織布の手提げ袋を売っているのを見つけた。多少小さいが用は為しそうなのでそれを買った。1.9RM。それに果物を移し替える。すぐ隣にコインランドリーを見つけたので溜まっている洗濯物を洗うことにする。そのコインランドリーは先にコインチェンジャーでお金をランドリー用のコインに交換し、それをランドリーの機械へと入れる仕組みになっている。ランドリー用のコインを機械に入れていくのだが、そのうちの1枚のコインが投入しても何故かそのまま返却されてしまう。何度か試したが駄目で、何か勘違いをしているのかと思い、説明書きを探してキョロキョロしているとランドリー内の他の客が近づいてきてコインを貸してごらんというような雰囲気を出すので渡す。するとそのコインの端を投入口に少しだけ挿し込み、そこから勢いよくコインを押し込んだ。すると無事コインは機械に収まった。勢いが大事だったらしい。
 洗濯を終え宿泊先へと向かう。今日の宿泊先は多少街から離れた場所にあるのでGrabで宿の住所まで送ってもらった。車を降り、建物を確認するとWebページ上の写真と見た目が違う。近くにそれらしき建物が無いか探すも見つからない。おかしいと思い住所ではなく宿の名称を地図アプリで検索すると数キロ離れた場所が表示される。今いる場所は村のような場所で多少入り組んだ道の先なのでGrabを改めて呼ぶのは時間がかかりそうだ。歩いて行くことにした。この日も快晴で歩いていると汗がダラダラ出てくる。やっと宿の近辺まで行ったところで前方2,30メートルほど離れた場所に茶色の牛が見えた。こっちに気づくと、こっちを見ながら歩みを進めてくる。突進でもされたらどうしようかと思うがこの道を行かなくては辿りつかないのでゆっくりと警戒しながら進む。意味があるかは分からないが積極的に目を逸らして敵意がないことを伝えつつ近づくと、ある程度近づいたところでヒモで繋がれていることが分かり安心した。宿へ着くとホストが来て「すごく汗をかいてるね」と言うので住所が間違っていたせいなんだけどなと多少イラっとしたが言わなかった。宿はかなり綺麗だった。すぐにシャワーを浴びて一時間ほど休憩した。それからナイトマーケットに出かけようと宿を出て歩き出すと後ろから一人の男性が来て名前を聞いてくる。突然何かと思ったがホストの息子らしい。Grabを使うなら近くに丁度目印になるモスクがあるからそこで呼ぶといいといって案内してくれた。加えてそのモスクの中を見ながら色々と説明してくれた。そこからGrabを呼び街へ。
 時間は7時頃で丁度夕飯時なのでチャイナタウンで肉骨茶を食べる。勝手にトンポーローみたいなのをイメージしていたが、案外あっさりとしており滋味溢れる味だった。美味い。その後ナイトマーケットへ行くがテントがあるだけで店は開いていない。そういえばホストが20時から始まるのだと言っていた。時間を潰すために近くのモールに入り地下のスーパーを見る。このモールには昼にも来たが手にフルーツの袋をぶら下げていたためスーパーには入らなかった。色々と気になるものはあるがリュックにそれほど空きは無く、昼に買ったフルーツもまだまだあるので控えめにバナナ、A&Wルートビア、oligoという名の飲み物を買った。バナナは短い品種が日本のものより甘いという話を聞いていたので買ってみた。バナナを買う際に売り場に吊るされているのを一房取りそれをそのままカゴに入れた。カゴをレジに出すと店員がフフッと笑って何か言った後バナナを持ってゆっくりと売り場の方へ歩き去った。いまいち何が起こっているのかは分からなかったが待っていると、3分は待ったと思うが店員が戻ってきた。その手には先のバナナの入った袋がありその袋には値札のシールが付いていた。どうやら売り場で値段をつけてもらう必要があったらしい。これほどにこやかにこちらのミスの面倒を見てくれるなんて親切すぎやしないだろうか。
 モールを出ると20時を過ぎており徐々にナイトマーケットの店が開き始めていた。見て回ると女性向けの衣類を売る店がほとんどで特に買いたいものはなかったが一通り眺め帰った。
 宿に戻り今日買ったフルーツや飲み物を食べることにする。まずは気になっていたルートビアドクターペッパー的なのをイメージしていたがもっと癖が強くサロンパスみたいな風味がある。不味くはないが少し甘さが強すぎる。もう少し控えめならゴクゴク飲めていいと思うのだが。ただ日常的に飲みたいかといえばそうではなく、やはり色物。次にバナナ。甘いには甘いが期待していたほど甘くはない。密度が高くネチッとした感じ。まだ完熟していない感じがする。ドリアンなんとか。よく見るとヘタのあたりがカビていて白い綿毛状の菌糸が張っている。また今日の移動中に一度袋を地面に落としてしまったのでそれによって果肉の一部が潰れ、グジュッとしている。ナイフがないので、電車のプリペイドカードをウェットティッシュで拭き、ナイフ替わりに当ててみると果肉は柔らかくスッと切れる。2つに切断し開くとトロピカル系のフルーツのいい香りがする。芯の周りが黒みがかっているので取り除くとその下に果肉と同色をした半透明の尺取虫めいた数ミリの虫が数匹ウネウネと動いていた。大分食欲を削がれたがとりあえず目に付いたものを取り除いた。明らかに多少傷んではいるが香りはいいので、安全そうな場所を少し試したい。果肉が綺麗な箇所を少しすくって食べてみると、りんごの味にトロピカル系のフルーツ風味を混ぜ、水っぽくしたような味がする。繊維が多い。このフルーツの正体が気になったので色々検索キーワードを変えて調べたところ、これはサワーソップだということが分かった。ドリアンベランダともいうらしい。次にロンガンを食べた。ライチに似ている。多少ネギっぽい風味。皮に柔軟性がないため、強く押すと皮がパキッと割れてそこから爪を入れるとツルッと剥ける。楽でいい。まあまあ美味い。次にロンコン。これは皮が柔らかく一か所に爪を立てて裂け目をいれればそこから綺麗に剥ける。味はグレープフルーツに近いが明確に違う。酸味はほぼない。美味しい。ただ種が果肉の中にありそれが脆いため大抵かみ砕いてしまい、そして噛むと多少渋い。ランブータン。これもライチに似た味。剥くのはかなり簡単で果肉の弾力が強い。中心に種があるのだが、種の一番外側の層が剥がれやすくそれが渋い。果肉の味自体はいいのだけれど種による欠点が目立つ。ロンガン、ロンコン、ランブータンの中では欠点の少なさからロンガンが優勝。

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俺のアクセント

 先ほど近くの会話を聞くともなく聞いていた。ある時一人が言った。
「小さいとき、『おれ』を『おれ(尾根と同じアクセント)』って言う奴いなかった?」
 問われた相手はいまいちピンと来ない反応。僕はこの問いかけを聞き、直ちに「確かにいた」と共感し、気分が揚がった。そして「『おれ』のアクセントが違う人」に意識が向くことがかなり稀有なことに思えて多少の感動、そしてそれを会話にとりあげた人に対する少しの尊敬が芽生えた。

 「尾根」の一般的なアクセントが自分の想像と一致するかを確かめるため検索をしたところ、様々な単語・フレーズのネイティブによる音声が聞けるForvoというサイトを見つけた。
ja.forvo.com

 このサイトはユーザーがリクエストに応じて音声をアップロードする仕組みになっており、いわゆるアナウンス調の音声よりは素人っぽい普通のものが多く、フレーズによっては複数の人の音声が聞ける。「尾根」の音声は2件あり、いずれも僕の想像と同じアクセントで安心した。
 ついでに他のフレーズも聞いてみると人によって個性があって面白い。アップロードしている人それぞれにアカウントがあり、そのアカウントのページからはその人が上げた音声の一覧を見ることができる。色々と聞いた結果、一番気に入ったのは次の音声:

いつも勝つための準備をしている の発音: いつも勝つための準備をしている の 日本語 の発音

 リンク名の通り「いつも勝つための準備をしている」という音声だが、声の明瞭さとフレーズの力強さがマッチしていて良い。

マレーシア記 3日目

 8時半にアラームをかけていたが7時頃に自然に目が覚めた。睡眠時間が少し足りない気もするが夕方にバスで移動する時間があるのでそこで寝ればいいと考え起きることにした。ガイドブックに載っている飲茶の店が徒歩数分の距離にあったのでそこへ朝食をとりに向かった。店員に案内されて席へ着くや否やニコニコしながら日本人かと尋ねてくるので、そうだと答えると、「おかゆ」はどうだと「おかゆ」を日本語で言って伝えてくるので欲しいと伝えた。ダイパオはどうだ、そこの人が食べてるやつだというのでそれもお願いする。そしたらお茶はどうだ、○○(忘れた)とプーアルがあるというのでプーアル茶をお願いする。その店員が去ると別の店員が様々な小鉢を乗せたおぼんを持ってきてそれぞれの料理の説明をしてくれるのでいくつか美味しそうなのをもらう。その店員が去るとまた別の店員が小鉢を勧めてくる。その店員からも美味しそうなのをもらうが、いよいよ一杯になって来たのでこれで十分だと伝える。全体のバランスを考えずに頼んだらやたらと炭水化物が多くなってしまった。味はどれも美味しい。ものすごく美味しいわけでは無いがどの料理もちゃんと作ってある味がする。いまいち金額を気にせず頼んだので会計は少し不安だったが確か20RM弱。
 宿に戻ってしばらくすると宿のホストがやってくる。荷物を片付けつつ話していると、コーヒーを飲みに行こうという。近所のカフェへ行く。ホストがメニューのラクサを指してこれはここのローカルフードだから是非食べるといいという。朝食をたっぷり取った後で腹は満たされていたが昨日のニョニャ料理が外れだったこともあり食べることにする。コーヒーはNescoffeeという練乳入りのコーヒーを頼んだ。ラクサは形容しがたい味だが爽やかなスパイスとハーブが効いたスープに麺の入った料理で、見た目はイエローカレーのような感じだが味はそれほどパンチがあるわけではなく優しい感じでまあまあ美味しい。食べながら話しているとホストが自分の運営する他のゲストハウスに日本人がいるが会いに行かないかという。特段強い希望も無かったが面白そうだと思い会うことにした。カフェを出てその人aさんのゲストハウスへ向かう。aさんはゆったりとした感じの人で突然の訪問にもかかわらず平熱で対応してくれた。互いの身の上話やおすすめの場所などいくらか話していると、徐々に天候が怪しくなり多少雨が降り始めたのでひどくならないうちに宿へ戻ることにした。宿に戻りホストに感謝を伝えチェックアウトした。
 クアラルンプールへと戻るバスは夕方に予約を取ったので、その時間まではマラッカを見ることにする。昨日見ていないオランダ広場辺りを見て回る。ザビエルの像や砦など見た後、博物館をいくつか見てみようかと思うが昼休みで入れない。昼休みのない博物館を見つけ入ったものの、それほど興味をそそられなかったのと説明文の英語を読むのが億劫で展示をざっと眺めて出た。博物館はもういいという気分になったので他のものを見ることにする。ガイドブックを開くとBukit Cinaの辺りが面白そうなのでそこへ向かう。途中でオールドタウンホワイトコーヒーを見つけたので入店した。ホワイトコーヒーは昨日飲んだので今回はテタレとバターサンドを頼んだ。いずれも美味しかったが昨日の店のが美味かった。Bukit Cinaに向かう途中喉が渇いたのでセブンイレブンに入り、滞在中にいつか買おうと思っていたスラーピーと水を買う。スラーピーはpanpanyaの日記に書かれているのを読み存在は知っていたがマレーシアに来るまで見たことはなかった。マレーシアのセブンイレブンには大抵の場合スラーピーが置いてあり、しかも店先にポスターを貼るなど結構押し出している。
 スラーピーは昔ファミリーマートで売っていたシャーベットのようなものを想像していたが、シャーベットというよりはほぼ液状で、多少のシャーベット部分でキンキンに冷えたジュースという感じ。微炭酸を感じる。しかし尋常ではなく甘い。飲んだ後に喉がベタつく感じがするほど。かき氷のシロップのような濃い甘さでマレーシアの人はこれを飲むのかというカルチャーショックを感じたが、飲み進めるうちになんとなく腹の感じがおかしくなる。流石にこの甘さは嗜好の違いのレベルで片がつくものではない。人体にとって危険なレベルだ。何らかのミスによりこのスラーピーはシロップ部分が異常に濃くなっているのではないかと疑念を持った。思い返せばこのスラーピーは店員に注いでもらったのだが、その際に店員はスラーピーがなかなか出てこないので装置のバルブを何度も開閉しながら注いでいた。もう一度買えばこれがイレギュラーかどうかを確かめられるが少なくともしばらくは甘いものを口に入れたくない。
 Bukit Cinaに向かう道中ではいい感じの建物があり色々と写真に収めた。Bukit Cinaの辺りはほとんど歩道が無く、その上車の往来が激しい。最初に目に入ったのは石碑でその石碑の背面から小高い山のようになっている。ガイドブックの地図を見るにその小山を囲むようにいくつか見るべきところがあるようなのでので山の周りをまわってみる。近くにThe King's wellと表示のある井戸があった。見たが感慨は特になし。その近くに中国風の寺院を見つけたので入る。門をくぐると境内の中で出店のような形で物を売っている人がいくらかいる。そしてそこそこ大きい犬がいた。中にいる人達は特に犬を気にしている様子でもないので、ここで飼われていたり居着いていたりする安全な犬かと思い境内の中に足を踏み入れる。しばらくすると犬がこっちに気づいた。近づいてくる。恐怖を感じすぐに犬から見えない場所まで退く。犬がまだついてくるかどうか距離を取った上で待っていると、ついて来た。焦って寺を出て車道を渡り再び様子を窺うがもうついてこなかった。次にガイドブックにある墓地を見ようと山を登る。先の犬の件から凶暴な野生動物がいたらどうしようと考えるが現れたら全速力で逃げる以外の方法が思いつかなかったのでビクビクしながら登る。山はそこまで高くないのですぐに頂上に着いた。頂上は平らになっており端からはそこそこの眺めが見えた。
 蚊が多いのでさっさと下りようと思うが来た側とは逆側に降りる道があり、登る時の容易さからしてどちらから下りてもすぐに麓に着くだろうと考え反対側から下ることにした。そちら側は緩やかな丘陵に沿って墓地がずっと続いており、道のようになっている部分があるので沿って進む。しかし道はずっと一本道で蛇行しながら概ね山の峰の部分に沿ってずっと続いている。しばらく歩いたが前方を見渡してもまだ墓地が続く。大して高い山でもないので現在地から麓沿いの道路が見えてはいるのだが道を外れた部分は草が多少繁っていてできれば行きたくない。しかしこのまま行っても麓にはしばらく着きそうもないので意を決して比較的茂みの浅い部分を見つけ道から外れた部分を行き、麓へと向かった。正規の道でないこともあり垣根のようになっている木の隙間を抜ける必要があったがともかく道路まで出られた。一通りBukit Cinaの見たいところは見終えたので戻ろうかと思うが、地図を見るとここからバスターミナルまではそれほど遠くはないことが分かった。バスの時間までまだ余裕があることもあり、風景を見つつ歩いてバスターミナルまで向かうことにした。
 その後無事バスターミナルへ着きクアラルンプールまで戻り寝た。

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マレーシア記 2日目

 9時頃起床。ドリアン、ビールの組み合わせで多少腹をやられることも覚悟していたが全く問題なし。今日はマラッカへ行くので宿の確保をした。荷物をまとめているうちに10時前。12時までにチェックアウトすればいいので荷物を置いてチャイナタウンへ朝食をとりに向かう。
 昨日通りかかったときに気になっていた店で海南鶏飯を食べ、その後ガイドブックに載っている亀ゼリーを食べた。薬っぽい味のゼリー。美味しい。次にセントラルマーケットへ行きぶらぶらした。良い感じのシャツがあったら買おうかと思っていたが、どれもデザインが濃ゆく気に入るものはなかった。これは土産物向けに個性を強調したデザインになっているのか、それともこれが普通なのか。また安っぽい陶器を売る店で見つけた鼠と蛇の変なマグカップに心を惹かれたが、割れ物を今買うのは得策ではないのでまた最終日付近にこの辺りに来るまで心に留めておくことにした。

 12時前に宿に戻りチェックアウトした。今日泊まった宿は最初にagodaで誤って今晩の分も予約してしまった宿なのでチェックアウトの際に今日の分も予約しているが今日は泊まらないと伝える。するとagodaで予約したかと聞かれる。おそらく同種の手違いが頻発しているのだろう。意外だったのは泊まらないと伝えた時の相手の表情で残念そうな顔をしていた。宿からすれば手間なしで宿泊代を得られるのだからむしろ多少嬉しいぐらいではないかと思ったが、恐らくこちらの損失を気の毒に思ってくれたのだろう。
 マラッカへはバスで行くのでまずはバスターミナルのある駅まで向かう。途中、乗り換えをミスしたり、降りるべき駅と似通った名前の駅で降りてしまうなどしていると電車の本数が少ないこともあり結構時間をロスしてしまった。バスターミナルに着いたのは14時過ぎですぐにバスを予約すると14時半の便が取れた。腹が減ってきたが出発までの時間がそれほどないのでターミナル内のコンビニKKでカレー入りの肉まんのようなものを買った。生地が厚くふかふかとしており美味かった。

 バスは無事着いた。クアラルンプール周辺は電車が張り巡らされているがこのあたりはそうではない。宿泊先はマラッカのチャイナタウンで歩いて行くには厳しい距離なのでここで初めてGrabを使った。タクシーはすぐにつかまり20分ほどで無事着いた。すごく便利だ。宿にチェックインし荷物を置き、一休みしたのち散策に出かける。17時過ぎ。とりあえずオランダ広場あたりへ行く。ここには博物館や観光名所的なところが密集しているがこれらを見る気分ではなかったので通り過ぎた。このあたりはトライショーが頻繁に大音量で音楽を流しながら過ぎており、博物館とあわせてある種テーマパークの趣がある。
 その近辺を抜けると通常の街の雰囲気へと変わり、大きなモールがあったので入った。コーヒーを飲んで一服したい気分になり、そういえば昨日からホワイトコーヒーという文字を何度も見るがあれは何なのかと気になりだした。調べてみるとホワイトコーヒーという飲み物があり、オールドタウンホワイトコーヒーというチェーン店がメジャーらしいということが分かった。地図アプリで調べてみるとこのモール内にあるらしい。フロアガイドが無いので、適当に歩き回って探すがだだっ広くてなかなか見当たらない。チョウキットのモールでも感じたことだが、とにかく敷地面積が広く、階数も多い。ここは6,7階まであった。上の階に行くほど空きテナントが増え、最上階では入っているテナントは1,2店舗しかなかった。ともかく見当たらないので途中で見かけたJOM coffeeというコーヒーショップのメニューを見てみると、ここでもホワイトコーヒーが飲めることがわかったので、そこに入った。時間的には18時半ぐらいで夕食時に近くなっていたが、この日はニョニャ料理を食べるつもりなのでガッツリは食べたくない。軽そうなものをとメニューにあったカヤバターサンドとホワイトコーヒーを頼む。バターサンドというからバターを塗ったトーストのようなものを想定していたが、実はこれもローカルフードだったようで焦げ茶色のペーストとバターを挟んだトーストが来た。単純ではあるが不味いはずもない。実際かなり美味しかった。ホワイトコーヒーも練乳が入っており甘いもののしっかりとコーヒーの風味がありこれも美味しかった。
 宿の近辺のJonker Streetでニョニャ料理を探すがちょうど定休日の店が多く、ニョニャ料理を出す店は微妙そうな店しかなかったが止むを得ずそこへ入った。店員がニョニャ料理だと言って紹介してくれた料理と、おすすめだという豆腐を揚げた料理を頼む。豆腐の方は揚げた豆腐の食感は面白いが味がスイートチリソース一辺倒でしかも甘さが強いので飽きる。ニョニャ料理の方は醤油とコーラで鶏肉を煮たような味の料理で鶏はパサついていた。総じて外れだった。
 宿へ戻り明日以降の予定を立てる。昨日今日と特に計画を立てずやってきた。今後も細かく詰める気はないが大まかには決めておかなくてはならない。この旅行では大まかにマレーシアの西側、南側とシンガポール、東側を見て回りたい。それぞれの地域への移動は飛行機を使おうと考えており各地に空港があるのでそれを使って国内の移動は容易にできると思っていたが、調べてみると大抵の場合クアラルンプールを経由しないと格安航空が使えないことがわかった。いちいちクアラルンプールに戻るのでは時間もお金もかかる。鉄道やバスでも行けないかと考えたが、料金は安いものの例えば西側から東側へ鉄道で行くには16時間もかかり、流石にこの短い旅行期間では厳しい。寝台列車に乗るのを少し楽しみにしていた部分もあるが今回は見送る。結局旅程はフライトを安く確保できるか次第ということになった。東側は絶対に行きたい。そして行くならば明日行かないと十分にみる時間が無くなりそうだ。また南側に行くとなるとかなりバタバタしそうなので今回は諦める。東側へのフライトは往路復路共に無事予約できた。
 シャワーを浴び、冷やしておいたフルーツを食べる。ドラゴンフルーツを切ってみると非常に鮮やかな紫色で断面もみずみずしく美味しそうだ。皮と身は綺麗に剥がれる。一口齧ってみると食感はシャクシャクとしていて良い。しかし味は多少甘さを感じるがやはり概ね水を食べているような感じで何とも物足りない。
 この後洗濯など身の回りのことをしていたら1時過ぎになっていたのですぐに寝た。

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