少し前のこと。就寝前の歯磨きをしていた。鏡の前にいると口をすすぐ衝動に駆られるので、磨く間は他の場所へ移動する。その日は外の空気を吸おうと屋上へと昇った。時間は深夜近く、少しだけ風が吹いていて涼しい。
 普段より辺りが明るい感じがする。月に目を向けると満月、もしくはほぼ満月というぐらい丸い。このことから周囲の明るさは月によるものだと推測するものの、これまでに月の明るさをはっきりと意識したことがないため確証はない。むしろこれまでに月の明るさを意識する経験がないという事実は月明かりの強度は大したものではないということの弱い証拠であるような気もする。そもそも本当に普段より明るいかも確かではないが。
 屋上の縁の柵に目を向けると割合はっきりと影ができている。周囲に照明はあるが、その向きに影を作るものは見当たらない。そして月によるものとすると自然な向きだ。ひとまず月による明るさだと認めることにした。

 月に見ていると不意に「綺麗だな」という言葉が心に浮かんだが、直後に「本当に綺麗だろうか」という疑念、より具体的には「満月は一般に綺麗なものとして扱われることが多いため、それに釣られているだけではないか」という疑念が浮かんだ。他人がこういうことを言い出したら面倒な奴だと思うし、綺麗かどうかなど論理的に帰結されるものでもないので無駄な問いだとは思うものの、不意に生じた綺麗だという感覚があまりに頼りなく問わずにはいられなかった。
 検証するような気持ちで月を見る。見れば見るほど表面に濃淡があるだけの光る円だ。取るに足らない感じもするが、じっと見ていても不思議と退屈しない。結論としてはまあまあ綺麗というところに落ち着いた。

 翌日googleのトップ画像を見るとお月見の絵になっており、今日が中秋の名月であることを知る。こうなると昨日が実際明るかったことへの真実味が増す。今日も深夜に見に行くことにした。1時頃にベッドに入るときまで忘れていたが、思い出して屋上へと向かった。屋上に出ると小雨がパラパラと振り、空一面曇っていた。当然月は見えなかった。

 その数日後にやはり満月とはいかないまでも結構丸い月を見たが、それほど綺麗だとは思わなかった。このときは雲がほとんどなく、前に見た時は月を囲むように薄い雲が浮かんでいた。どうもこの差が効いているらしい。つまり月単体では物足りないが、周りの雲があるといい感じにバランスが取れるというような。

マレーシア記 4日目

 7時頃起床。コタバルへの飛行機は10時5分発。国内線なので搭乗手続きにそこまで時間がかからないだろうと考え、9時過ぎに空港へ着いておく予定にする。KLセントラル近くのリトルインディアを見ておきたかったのでKLセントラルまではすぐに来ておいた。着いたのは7時半。駅でKLIAエクスプレスの時刻表を確認し、8時45分発、9時18分着のに乗ることにする。駅からしばらく歩きリトルインディア周辺まで行くが、まだ朝が早いからなのかシャッターの下りている店が多い。しばらく探すと開いている飲食店をいくつか見つけた。そのうちの1つに入ろうとするが外から眺めてもどのような感じで注文するのかがわからない。メニューを見て注文する感じでなくプレートに盛り付けてそれをカウンターに持っていき払うというような雰囲気ではあるが確信はもてない。慌ただしく客が出入りしているので店員に尋ねるのも迷惑な気がして、他の店をあたるが、そちらも同様に注文の形式がつかめない。このように逡巡しているうち時間の余裕がそれほどなくなってきたので諦めて帰ろうかと思いつつ歩いていると普通にメニューを見て注文する形式の店を見つけ、そこに入った。イドゥリとお茶を頼んだ。イドゥリを食べたのは初めてだが美味かった。サンバルとココナッツチャツネがついてきて、それを指でぐちゃぐちゃと混ぜて食べた。
 食べ終えて駅へと向かうが徐々に間に合うか瀬戸際の時間であることが判ってくる。足早に、時には小走りも交えつつ駅へと向かう。駅にはなんとか間に合いそうな時間に着いたが、構内で道を間違え予定していた電車を逃してしまった。次のに乗ると着くのは9時33分。搭乗ゲートは出発の20分前つまり9時45分には閉まる。これは思ったよりもやばい気がしてきた。とにかく駅に到着してから最短で搭乗口まで行けるよう電車の待ち時間と乗車時間を使って調べる。ターミナル内の移動手順や搭乗ゲートの場所は頭に入れた。昨日のうちにWebチェックインは済ませてあるので、不確定要素なのは荷物検査だが、これはもう運次第だ。電車が着く数分前からドアの前に立ち、リュックの紐をきつめに締め体に密着させ走りやすくした。そして恥じらいを捨ててとにかく出来る限り走るのだとマインドセットをした。出発20分前に着けるかは結構怪しいが搭乗がもたつくかもしれないし、数分の遅れなら大目に見てもらえる可能性もある。電車はほぼ時間通りに着いた。ドアが開くと同時に走りだす。予習の成果もあり迷わずにターミナル内を移動できた。また荷物検査も待ち時間1分ほどで済んだ。この時点で間に合うような気がしてきたが1つのイレギュラーで容易に無くなりうる余裕しかないので気は抜けない。次は搭乗口まで走る。搭乗口は端から2番目なのでかなり遠い。リュックをきつめに締めているので多少呼吸がしづらく息が切れて途中歩いたが9時41分に着いた。半ば無理かもしれないと思っていたので強い安堵を感じた。無事乗れた。

 飛行機がコタバルへ近づき地上が見え始めるとクアラルンプール周辺との違いに驚いた。地面の大部分は濃い緑で覆われており泥の色をした太く長い川が見える。ただし川と判別できるのは周囲の環境からして川以外ではありえないからであって、流れを感じさせず透明感がないため、それのみではのっぺりとした茶色の帯状のものにしか見えない。また地面を蔽う緑は椰子の木めいた木の葉によるもので南国のような雰囲気がある。
 到着して飛行機を降りたあたりで再び飛行機に乗るまでのドタバタを思い出し、またそれによる疲労もあり一休みしたい気分になった。空港内のカフェでケバブラップのようなものとコーヒーを摂った。
 コタバルに来たものの特に目当ての物があるわけではないので、地図を見て町の中心部らしき場所へと向かう。Grabを使った。適当に場所を指定したので下りた地点の周りは特に何もなかった。そこから適当に歩くと広い道路があったがほとんど車もバイクも走っていない。その開けた道路の脇には風で寄せられた紙、ビニールなどのゴミが散らばっている。この日は中々暑く、この空漠とした道路を歩いているとコタバルは暑くて何もないハードボイルドな土地なのだという感じがして来た。実際には全くそんなことはなかったが。自覚のなかったことだが、どうやら僕は初めて行く土地の印象をドラマティックに捉えたがる傾向があるらしい。
 ともかくその近辺はあまり何もないので改めて地図を見てセントラルマーケットという場所へ向かった。このマーケットはクアラルンプールやチョウキットよりも落ち着いたマーケットで生活感があった。果物、鶏、米、野菜、手作りのお菓子、おもちゃなど色々売っている。何となくアウェイ感があり、店員と目が合わないようにチラチラ見ながら何も買わずに一回りした。何か冷たい飲み物を売る店があれば買おうかと思ったがないので自販機で豆乳を買った。この自販機は日本の物を流用しているようでお札の投入口には1000と書かれているし注意書きも日本語で書かれている。そして何故か側面には漫画フェアリーテイルのプリントがされていた。逆側にはアメコミのプリント。豆乳を飲むと少し落ち着き景色がはっきり見えてくるような気がした。クアラルンプールのチャイナタウンのときもそうだったが何か一つ買うと気持ちが落ち着いてくる。もう一度マーケットをじっくりと回ることにした。ある果物屋を見ていると店主のおばさんがロンガンを1つ試食させてくれた。続けてロンコン、マンゴーも試食させてくれた。ロンガンと見たことのない果物があったのでそれを買った。ドリアンなんとかという名前らしい。後半は聞き取れなかった。ドリアンのような味がするのかと尋ねると、違うとのこと。おまけでロンコンを1房くれた。それを持って歩いていると別の果物屋が声をかけてきてランブータンを指さし続いて指を3本立てる。3RM ということらしい。無愛想で何故当然こちらが買うような態度なのかは不思議だったが先の店ではランブータンが無かったので買うことにする。果物が透けて見える袋を持ち歩いていると次々呼び止められる可能性があると考え、手頃な手提げ袋を売っていないかかとマーケットを軽く見て回るが無い。マーケットは3階まであるようだったが上の階にのぼっていくのが女性ばかりだったため、男子禁制であったり、奇異な目で見られる可能性があったりするかもしれないと考え行かなかった。
 別の場所に行こうと歩いているとコタバルに来てから見ていなかったセブンイレブンを見つける。水を買って外に出ると外から見える位置にセブンのロゴのついた不織布の手提げ袋を売っているのを見つけた。多少小さいが用は為しそうなのでそれを買った。1.9RM。それに果物を移し替える。すぐ隣にコインランドリーを見つけたので溜まっている洗濯物を洗うことにする。そのコインランドリーは先にコインチェンジャーでお金をランドリー用のコインに交換し、それをランドリーの機械へと入れる仕組みになっている。ランドリー用のコインを機械に入れていくのだが、そのうちの1枚のコインが投入しても何故かそのまま返却されてしまう。何度か試したが駄目で、何か勘違いをしているのかと思い、説明書きを探してキョロキョロしているとランドリー内の他の客が近づいてきてコインを貸してごらんというような雰囲気を出すので渡す。するとそのコインの端を投入口に少しだけ挿し込み、そこから勢いよくコインを押し込んだ。すると無事コインは機械に収まった。勢いが大事だったらしい。
 洗濯を終え宿泊先へと向かう。今日の宿泊先は多少街から離れた場所にあるのでGrabで宿の住所まで送ってもらった。車を降り、建物を確認するとWebページ上の写真と見た目が違う。近くにそれらしき建物が無いか探すも見つからない。おかしいと思い住所ではなく宿の名称を地図アプリで検索すると数キロ離れた場所が表示される。今いる場所は村のような場所で多少入り組んだ道の先なのでGrabを改めて呼ぶのは時間がかかりそうだ。歩いて行くことにした。この日も快晴で歩いていると汗がダラダラ出てくる。やっと宿の近辺まで行ったところで前方2,30メートルほど離れた場所に茶色の牛が見えた。こっちに気づくと、こっちを見ながら歩みを進めてくる。突進でもされたらどうしようかと思うがこの道を行かなくては辿りつかないのでゆっくりと警戒しながら進む。意味があるかは分からないが積極的に目を逸らして敵意がないことを伝えつつ近づくと、ある程度近づいたところでヒモで繋がれていることが分かり安心した。宿へ着くとホストが来て「すごく汗をかいてるね」と言うので住所が間違っていたせいなんだけどなと多少イラっとしたが言わなかった。宿はかなり綺麗だった。すぐにシャワーを浴びて一時間ほど休憩した。それからナイトマーケットに出かけようと宿を出て歩き出すと後ろから一人の男性が来て名前を聞いてくる。突然何かと思ったがホストの息子らしい。Grabを使うなら近くに丁度目印になるモスクがあるからそこで呼ぶといいといって案内してくれた。加えてそのモスクの中を見ながら色々と説明してくれた。そこからGrabを呼び街へ。
 時間は7時頃で丁度夕飯時なのでチャイナタウンで肉骨茶を食べる。勝手にトンポーローみたいなのをイメージしていたが、案外あっさりとしており滋味溢れる味だった。美味い。その後ナイトマーケットへ行くがテントがあるだけで店は開いていない。そういえばホストが20時から始まるのだと言っていた。時間を潰すために近くのモールに入り地下のスーパーを見る。このモールには昼にも来たが手にフルーツの袋をぶら下げていたためスーパーには入らなかった。色々と気になるものはあるがリュックにそれほど空きは無く、昼に買ったフルーツもまだまだあるので控えめにバナナ、A&Wルートビア、oligoという名の飲み物を買った。バナナは短い品種が日本のものより甘いという話を聞いていたので買ってみた。バナナを買う際に売り場に吊るされているのを一房取りそれをそのままカゴに入れた。カゴをレジに出すと店員がフフッと笑って何か言った後バナナを持ってゆっくりと売り場の方へ歩き去った。いまいち何が起こっているのかは分からなかったが待っていると、3分は待ったと思うが店員が戻ってきた。その手には先のバナナの入った袋がありその袋には値札のシールが付いていた。どうやら売り場で値段をつけてもらう必要があったらしい。これほどにこやかにこちらのミスの面倒を見てくれるなんて親切すぎやしないだろうか。
 モールを出ると20時を過ぎており徐々にナイトマーケットの店が開き始めていた。見て回ると女性向けの衣類を売る店がほとんどで特に買いたいものはなかったが一通り眺め帰った。
 宿に戻り今日買ったフルーツや飲み物を食べることにする。まずは気になっていたルートビアドクターペッパー的なのをイメージしていたがもっと癖が強くサロンパスみたいな風味がある。不味くはないが少し甘さが強すぎる。もう少し控えめならゴクゴク飲めていいと思うのだが。ただ日常的に飲みたいかといえばそうではなく、やはり色物。次にバナナ。甘いには甘いが期待していたほど甘くはない。密度が高くネチッとした感じ。まだ完熟していない感じがする。ドリアンなんとか。よく見るとヘタのあたりがカビていて白い綿毛状の菌糸が張っている。また今日の移動中に一度袋を地面に落としてしまったのでそれによって果肉の一部が潰れ、グジュッとしている。ナイフがないので、電車のプリペイドカードをウェットティッシュで拭き、ナイフ替わりに当ててみると果肉は柔らかくスッと切れる。2つに切断し開くとトロピカル系のフルーツのいい香りがする。芯の周りが黒みがかっているので取り除くとその下に果肉と同色をした半透明の尺取虫めいた数ミリの虫が数匹ウネウネと動いていた。大分食欲を削がれたがとりあえず目に付いたものを取り除いた。明らかに多少傷んではいるが香りはいいので、安全そうな場所を少し試したい。果肉が綺麗な箇所を少しすくって食べてみると、りんごの味にトロピカル系のフルーツ風味を混ぜ、水っぽくしたような味がする。繊維が多い。このフルーツの正体が気になったので色々検索キーワードを変えて調べたところ、これはサワーソップだということが分かった。ドリアンベランダともいうらしい。次にロンガンを食べた。ライチに似ている。多少ネギっぽい風味。皮に柔軟性がないため、強く押すと皮がパキッと割れてそこから爪を入れるとツルッと剥ける。楽でいい。まあまあ美味い。次にロンコン。これは皮が柔らかく一か所に爪を立てて裂け目をいれればそこから綺麗に剥ける。味はグレープフルーツに近いが明確に違う。酸味はほぼない。美味しい。ただ種が果肉の中にありそれが脆いため大抵かみ砕いてしまい、そして噛むと多少渋い。ランブータン。これもライチに似た味。剥くのはかなり簡単で果肉の弾力が強い。中心に種があるのだが、種の一番外側の層が剥がれやすくそれが渋い。果肉の味自体はいいのだけれど種による欠点が目立つ。ロンガン、ロンコン、ランブータンの中では欠点の少なさからロンガンが優勝。

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俺のアクセント

 先ほど近くの会話を聞くともなく聞いていた。ある時一人が言った。
「小さいとき、『おれ』を『おれ(尾根と同じアクセント)』って言う奴いなかった?」
 問われた相手はいまいちピンと来ない反応。僕はこの問いかけを聞き、直ちに「確かにいた」と共感し、気分が揚がった。そして「『おれ』のアクセントが違う人」に意識が向くことがかなり稀有なことに思えて多少の感動、そしてそれを会話にとりあげた人に対する少しの尊敬が芽生えた。

 「尾根」の一般的なアクセントが自分の想像と一致するかを確かめるため検索をしたところ、様々な単語・フレーズのネイティブによる音声が聞けるForvoというサイトを見つけた。
ja.forvo.com

 このサイトはユーザーがリクエストに応じて音声をアップロードする仕組みになっており、いわゆるアナウンス調の音声よりは素人っぽい普通のものが多く、フレーズによっては複数の人の音声が聞ける。「尾根」の音声は2件あり、いずれも僕の想像と同じアクセントで安心した。
 ついでに他のフレーズも聞いてみると人によって個性があって面白い。ユーザーのページからはそのユーザーが上げた音声の一覧を見ることができる。色々と聞いた結果、一番気に入ったのは次の音声:

いつも勝つための準備をしている の発音: いつも勝つための準備をしている の 日本語 の発音

 リンク名の通り「いつも勝つための準備をしている」という音声だが、声の明瞭さとフレーズの力強さがマッチしていて良い。

マレーシア記 3日目

 8時半にアラームをかけていたが7時頃に自然に目が覚めた。睡眠時間が少し足りない気もするが夕方にバスで移動する時間があるのでそこで寝ればいいと考え起きることにした。ガイドブックに載っている飲茶の店が徒歩数分の距離にあったのでそこへ朝食をとりに向かった。店員に案内されて席へ着くや否やニコニコしながら日本人かと尋ねてくるので、そうだと答えると、「おかゆ」はどうだと「おかゆ」を日本語で言って伝えてくるので欲しいと伝えた。ダイパオはどうだ、そこの人が食べてるやつだというのでそれもお願いする。そしたらお茶はどうだ、○○(忘れた)とプーアルがあるというのでプーアル茶をお願いする。その店員が去ると別の店員が様々な小鉢を乗せたおぼんを持ってきてそれぞれの料理の説明をしてくれるのでいくつか美味しそうなのをもらう。その店員が去るとまた別の店員が小鉢を勧めてくる。その店員からも美味しそうなのをもらうが、いよいよ一杯になって来たのでこれで十分だと伝える。全体のバランスを考えずに頼んだらやたらと炭水化物が多くなってしまった。味はどれも美味しい。ものすごく美味しいわけでは無いがどの料理もちゃんと作ってある味がする。いまいち金額を気にせず頼んだので会計は少し不安だったが確か20RM弱。
 宿に戻ってしばらくすると宿のホストがやってくる。荷物を片付けつつ話していると、コーヒーを飲みに行こうという。近所のカフェへ行く。ホストがメニューのラクサを指してこれはここのローカルフードだから是非食べるといいという。朝食をたっぷり取った後で腹は満たされていたが昨日のニョニャ料理が外れだったこともあり食べることにする。コーヒーはNescoffeeという練乳入りのコーヒーを頼んだ。ラクサは形容しがたい味だが爽やかなスパイスとハーブが効いたスープに麺の入った料理で、見た目はイエローカレーのような感じだが味はそれほどパンチがあるわけではなく優しい感じでまあまあ美味しい。食べながら話しているとホストが自分の運営する他のゲストハウスに日本人がいるが会いに行かないかという。特段強い希望も無かったが面白そうだと思い会うことにした。カフェを出てその人aさんのゲストハウスへ向かう。aさんはゆったりとした感じの人で突然の訪問にもかかわらず平熱で対応してくれた。互いの身の上話やおすすめの場所などいくらか話していると、徐々に天候が怪しくなり多少雨が降り始めたのでひどくならないうちに宿へ戻ることにした。宿に戻りホストに感謝を伝えチェックアウトした。
 クアラルンプールへと戻るバスは夕方に予約を取ったので、その時間まではマラッカを見ることにする。昨日見ていないオランダ広場辺りを見て回る。ザビエルの像や砦など見た後、博物館をいくつか見てみようかと思うが昼休みで入れない。昼休みのない博物館を見つけ入ったものの、それほど興味をそそられなかったのと説明文の英語を読むのが億劫で展示をざっと眺めて出た。博物館はもういいという気分になったので他のものを見ることにする。ガイドブックを開くとBukit Cinaの辺りが面白そうなのでそこへ向かう。途中でオールドタウンホワイトコーヒーを見つけたので入店した。ホワイトコーヒーは昨日飲んだので今回はテタレとバターサンドを頼んだ。いずれも美味しかったが昨日の店のが美味かった。Bukit Cinaに向かう途中喉が渇いたのでセブンイレブンに入り、滞在中にいつか買おうと思っていたスラーピーと水を買う。スラーピーはpanpanyaの日記に書かれているのを読み存在は知っていたがマレーシアに来るまで見たことはなかった。マレーシアのセブンイレブンには大抵の場合スラーピーが置いてあり、しかも店先にポスターを貼るなど結構押し出している。
 スラーピーは昔ファミリーマートで売っていたシャーベットのようなものを想像していたが、シャーベットというよりはほぼ液状で、多少のシャーベット部分でキンキンに冷えたジュースという感じ。微炭酸を感じる。しかし尋常ではなく甘い。飲んだ後に喉がベタつく感じがするほど。かき氷のシロップのような濃い甘さでマレーシアの人はこれを飲むのかというカルチャーショックを感じたが、飲み進めるうちになんとなく腹の感じがおかしくなる。流石にこの甘さは嗜好の違いのレベルで片がつくものではない。人体にとって危険なレベルだ。何らかのミスによりこのスラーピーはシロップ部分が異常に濃くなっているのではないかと疑念を持った。思い返せばこのスラーピーは店員に注いでもらったのだが、その際に店員はスラーピーがなかなか出てこないので装置のバルブを何度も開閉しながら注いでいた。もう一度買えばこれがイレギュラーかどうかを確かめられるが少なくともしばらくは甘いものを口に入れたくない。
 Bukit Cinaに向かう道中ではいい感じの建物があり色々と写真に収めた。Bukit Cinaの辺りはほとんど歩道が無く、その上車の往来が激しい。最初に目に入ったのは石碑でその石碑の背面から小高い山のようになっている。ガイドブックの地図を見るにその小山を囲むようにいくつか見るべきところがあるようなのでので山の周りをまわってみる。近くにThe King's wellと表示のある井戸があった。見たが感慨は特になし。その近くに中国風の寺院を見つけたので入る。門をくぐると境内の中で出店のような形で物を売っている人がいくらかいる。そしてそこそこ大きい犬がいた。中にいる人達は特に犬を気にしている様子でもないので、ここで飼われていたり居着いていたりする安全な犬かと思い境内の中に足を踏み入れる。しばらくすると犬がこっちに気づいた。近づいてくる。恐怖を感じすぐに犬から見えない場所まで退く。犬がまだついてくるかどうか距離を取った上で待っていると、ついて来た。焦って寺を出て車道を渡り再び様子を窺うがもうついてこなかった。次にガイドブックにある墓地を見ようと山を登る。先の犬の件から凶暴な野生動物がいたらどうしようと考えるが現れたら全速力で逃げる以外の方法が思いつかなかったのでビクビクしながら登る。山はそこまで高くないのですぐに頂上に着いた。頂上は平らになっており端からはそこそこの眺めが見えた。
 蚊が多いのでさっさと下りようと思うが来た側とは逆側に降りる道があり、登る時の容易さからしてどちらから下りてもすぐに麓に着くだろうと考え反対側から下ることにした。そちら側は緩やかな丘陵に沿って墓地がずっと続いており、道のようになっている部分があるので沿って進む。しかし道はずっと一本道で蛇行しながら概ね山の峰の部分に沿ってずっと続いている。しばらく歩いたが前方を見渡してもまだ墓地が続く。大して高い山でもないので現在地から麓沿いの道路が見えてはいるのだが道を外れた部分は草が多少繁っていてできれば行きたくない。しかしこのまま行っても麓にはしばらく着きそうもないので意を決して比較的茂みの浅い部分を見つけ道から外れた部分を行き、麓へと向かった。正規の道でないこともあり垣根のようになっている木の隙間を抜ける必要があったがともかく道路まで出られた。一通りBukit Cinaの見たいところは見終えたので戻ろうかと思うが、地図を見るとここからバスターミナルまではそれほど遠くはないことが分かった。バスの時間までまだ余裕があることもあり、風景を見つつ歩いてバスターミナルまで向かうことにした。
 その後無事バスターミナルへ着きクアラルンプールまで戻り寝た。

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マレーシア記 2日目

 9時頃起床。ドリアン、ビールの組み合わせで多少腹をやられることも覚悟していたが全く問題なし。今日はマラッカへ行くので宿の確保をした。荷物をまとめているうちに10時前。12時までにチェックアウトすればいいので荷物を置いてチャイナタウンへ朝食をとりに向かう。
 昨日通りかかったときに気になっていた店で海南鶏飯を食べ、その後ガイドブックに載っている亀ゼリーを食べた。薬っぽい味のゼリー。美味しい。次にセントラルマーケットへ行きぶらぶらした。良い感じのシャツがあったら買おうかと思っていたが、どれもデザインが濃ゆく気に入るものはなかった。これは土産物向けに個性を強調したデザインになっているのか、それともこれが普通なのか。また安っぽい陶器を売る店で見つけた鼠と蛇の変なマグカップに心を惹かれたが、割れ物を今買うのは得策ではないのでまた最終日付近にこの辺りに来るまで心に留めておくことにした。

 12時前に宿に戻りチェックアウトした。今日泊まった宿は最初にagodaで誤って今晩の分も予約してしまった宿なのでチェックアウトの際に今日の分も予約しているが今日は泊まらないと伝える。するとagodaで予約したかと聞かれる。おそらく同種の手違いが頻発しているのだろう。意外だったのは泊まらないと伝えた時の相手の表情で残念そうな顔をしていた。宿からすれば手間なしで宿泊代を得られるのだからむしろ多少嬉しいぐらいではないかと思ったが、恐らくこちらの損失を気の毒に思ってくれたのだろう。
 マラッカへはバスで行くのでまずはバスターミナルのある駅まで向かう。途中、乗り換えをミスしたり、降りるべき駅と似通った名前の駅で降りてしまうなどしていると電車の本数が少ないこともあり結構時間をロスしてしまった。バスターミナルに着いたのは14時過ぎですぐにバスを予約すると14時半の便が取れた。腹が減ってきたが出発までの時間がそれほどないのでターミナル内のコンビニKKでカレー入りの肉まんのようなものを買った。生地が厚くふかふかとしており美味かった。

 バスは無事着いた。クアラルンプール周辺は電車が張り巡らされているがこのあたりはそうではない。宿泊先はマラッカのチャイナタウンで歩いて行くには厳しい距離なのでここで初めてGrabを使った。タクシーはすぐにつかまり20分ほどで無事着いた。すごく便利だ。宿にチェックインし荷物を置き、一休みしたのち散策に出かける。17時過ぎ。とりあえずオランダ広場あたりへ行く。ここには博物館や観光名所的なところが密集しているがこれらを見る気分ではなかったので通り過ぎた。このあたりはトライショーが頻繁に大音量で音楽を流しながら過ぎており、博物館とあわせてある種テーマパークの趣がある。
 その近辺を抜けると通常の街の雰囲気へと変わり、大きなモールがあったので入った。コーヒーを飲んで一服したい気分になり、そういえば昨日からホワイトコーヒーという文字を何度も見るがあれは何なのかと気になりだした。調べてみるとホワイトコーヒーという飲み物があり、オールドタウンホワイトコーヒーというチェーン店がメジャーらしいということが分かった。地図アプリで調べてみるとこのモール内にあるらしい。フロアガイドが無いので、適当に歩き回って探すがだだっ広くてなかなか見当たらない。チョウキットのモールでも感じたことだが、とにかく敷地面積が広く、階数も多い。ここは6,7階まであった。上の階に行くほど空きテナントが増え、最上階では入っているテナントは1,2店舗しかなかった。ともかく見当たらないので途中で見かけたJOM coffeeというコーヒーショップのメニューを見てみると、ここでもホワイトコーヒーが飲めることがわかったので、そこに入った。時間的には18時半ぐらいで夕食時に近くなっていたが、この日はニョニャ料理を食べるつもりなのでガッツリは食べたくない。軽そうなものをとメニューにあったカヤバターサンドとホワイトコーヒーを頼む。バターサンドというからバターを塗ったトーストのようなものを想定していたが、実はこれもローカルフードだったようで焦げ茶色のペーストとバターを挟んだトーストが来た。単純ではあるが不味いはずもない。実際かなり美味しかった。ホワイトコーヒーも練乳が入っており甘いもののしっかりとコーヒーの風味がありこれも美味しかった。
 宿の近辺のJonker Streetでニョニャ料理を探すがちょうど定休日の店が多く、ニョニャ料理を出す店は微妙そうな店しかなかったが止むを得ずそこへ入った。店員がニョニャ料理だと言って紹介してくれた料理と、おすすめだという豆腐を揚げた料理を頼む。豆腐の方は揚げた豆腐の食感は面白いが味がスイートチリソース一辺倒でしかも甘さが強いので飽きる。ニョニャ料理の方は醤油とコーラで鶏肉を煮たような味の料理で鶏はパサついていた。総じて外れだった。
 宿へ戻り明日以降の予定を立てる。昨日今日と特に計画を立てずやってきた。今後も細かく詰める気はないが大まかには決めておかなくてはならない。この旅行では大まかにマレーシアの西側、南側とシンガポール、東側を見て回りたい。それぞれの地域への移動は飛行機を使おうと考えており各地に空港があるのでそれを使って国内の移動は容易にできると思っていたが、調べてみると大抵の場合クアラルンプールを経由しないと格安航空が使えないことがわかった。いちいちクアラルンプールに戻るのでは時間もお金もかかる。鉄道やバスでも行けないかと考えたが、料金は安いものの例えば西側から東側へ鉄道で行くには16時間もかかり、流石にこの短い旅行期間では厳しい。寝台列車に乗るのを少し楽しみにしていた部分もあるが今回は見送る。結局旅程はフライトを安く確保できるか次第ということになった。東側は絶対に行きたい。そして行くならば明日行かないと十分にみる時間が無くなりそうだ。また南側に行くとなるとかなりバタバタしそうなので今回は諦める。東側へのフライトは往路復路共に無事予約できた。
 シャワーを浴び、冷やしておいたフルーツを食べる。ドラゴンフルーツを切ってみると非常に鮮やかな紫色で断面もみずみずしく美味しそうだ。皮と身は綺麗に剥がれる。一口齧ってみると食感はシャクシャクとしていて良い。しかし味は多少甘さを感じるがやはり概ね水を食べているような感じで何とも物足りない。
 この後洗濯など身の回りのことをしていたら1時過ぎになっていたのですぐに寝た。

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マレーシア記 1日目

 現地時間4時頃到着。入国手続きを済ませ到着ゲートを抜けると隣接するショッピングモールへと出た。まだ早朝のためほぼすべてのテナントは閉まっている。歩き回っているとファミリーマートを見つける。現地産っぽい商品もあるものの日本で見るような商品も沢山あり、中にはパッケージが日本語のもの、つまり日本用の商品がそのまま売られているものもあった。一度買い物の感じをつかんでおこうと飲み物を買うことにした。日本には無いものをと菊花茶と書かれたのを選んだ。買い物の手順は日本とまったく同様で何事もなく済んだ。味は蜂蜜の香りがする甘い水という感じ。不味くはないが甘さが強いので一度に一口しか飲めない。パッケージを読むと原材料は菊の花、リコリスの抽出物、砂糖という感じで蜂蜜のような風味は菊の花に由来するのだろうか。
 時間をつぶす場所もないためさっさと都市部へと移動することにする。KLIAエクスプレスに乗ってKLセントラルへと向かう。電車の待ち時間+乗車時間を使って、宿泊先の確保と今日の予定を立てることにする。今日はクアラルンプール周辺を見ることにし、とりあえずはチャイナタウンとチョウキットへ行くことにした。次は宿泊先を探す。前日の段階でAirbnbで宿を検索してみたところ選択肢が沢山あり焦ることはないと思い放っておいたが、今見たら高めの宿しか残っていない。失敗した。宿探しの方法としては他にエクスペディアを考えていたが、今日から明日にかけての宿泊の検索ができない。後になって気づいたことだが僕はこのとき日付を一日前と勘違いしていて昨日から今日にかけての宿泊先を検索しようとしており、それは当然できなかった。しかし初めて使うこともあり、それをもってエクスペディアでは当日の予約はできないのだと判断してしまった。他の宿検索サイトはないかと調べてみたところagodaというのが東南アジアでは強いとのことだった。早速使ってみると安くて良さそうなところが見つかり、すぐに予約を取る。しかし予約確定のメールをよく見ると予約が明後日から明々後日の宿泊になっている。しかもキャンセルはできないとのこと。前日の予約だから仕方ないか。確かに今晩の宿泊で検索したはずだと思い改めてagodaで日付を設定し検索すると、検索結果は明後日のものが出ている。自分の操作ミスを疑いもう一度設定し直して調べるとやはり明後日の結果が出る。そして「過去の日付が指定されていたので変更した結果を表示しています」的な注意書きが現れた。もちろんここでも僕は日付を勘違いしており過去の日付を指定して検索していた。しかし過去の日付を入れると自動で明日から明後日にかけての宿泊の結果を表示するというのも設計としてどうなのかという気もする。ともかく明後日に予約をしてしまったし今日の予約は取れてない。明日はマラッカに行く予定なので恐らくこの予約は無駄になる。金額としては数百円程度の損失だが惜しいことをした。とりあえずガイドブックに載っているゲストハウスに直接訪問し、泊まれるかを尋ねることにした。
 KLセントラルに着いたのは5時過ぎで外はまだ暗い。安全そうなら少しぶらつこうと外に出て見ると駅を出てすぐのところには多数のタクシーが待機しているものの一つ角を曲がるともう人気がほとんどない。これはもしかすると危険かもしれないと感じて引き返す。電車でクアラルンプール駅まで行くことにした。券売機で行き先を指定しお金を入れるとプラスチックのコインが出てくる。これが切符の役割を果たすらしい。早速改札に入りホームへ向かう。ホームの電光掲示板を見ると次の電車は7時前。まだ1時間以上ある。次の電車の時間を調べてから改札をくぐるべきだった。入ってしまった以上待つしかないのでベンチに座り旅程を立てて時間をつぶした。

 時刻表より数分遅れて電車は着きクアラルンプール駅まで行った。歩いてチャイナタウンを目指す。クアラルンプールは最寄駅ではないが街の雰囲気を知りたかったのでそうした。道は歩きにくい部分が多々あり、補修中でガタガタになっている歩道や道路脇にある排水溝の対岸の狭いスペースを歩く必要があった。朝の通勤時間帯らしく、朝食を販売する人々が所々にいた。通路の脇に長机を置き、その上にいくつかの料理を並べて販売している。それらの人の一部は料理の上ではたきをパタパタと振り、絶えず寄ってくるハエを追い払っていた。中には美味しそうなものもいくらかあったが、ここで買うのはまだハードルが高く、見送った。
 いよいよチャイナタウンへと近づき大きな門が見えてくる。歩道橋を通って門の目前の大きな通りを横切る。歩道橋の上には人が寝ておりうっすらと小便の臭いがする。ヤバい人かもしれないので起こしてしまわないように静かに横切る。歩道橋を降りチャイナタウンのメインストリートらしい華やかな門をくぐる。
 ガイドブックの印象から観光地めいた場所をイメージしていたが、はじめに感じたのは恐怖だった。時間が早かったのもあるかもしれないが、通りの両岸の建物はほとんど戸が閉まっていた。戸は黒ずんでいる。道のわきには木製の屋台が並んでいるが何の装飾も表示もない。これも黒ずんでいる。頭に荒廃、世紀末という言葉が浮かんだ。これは大丈夫だろうかと不安になったがともかく警戒しながら進む。ときおり屋台の上に人が上半身裸で寝ている。鶏もうろついている。行くうちにいくつか開いている飲食店を見つけた。どれかに入ろうと思うが踏ん切りがつかないまま通りの端まで来てしまった。通り過ぎてどうするんだと自問し、来た道を戻りつつ入れそうな店を探すがやはりどこにも入れないまま再び通りの端まで来てしまった。これでは来た意味がないので再び通りへと行こうと思うが、この観光客然とした見た目で何度も往復していては不慣れな感じ丸出しで危険なのかもしれないと思い、少し回り道をして別ルートから再び通りへと向かう。
 回り道をしていると路上でフリーマーケットのようなものに遭遇した。チープなアクセサリや民芸品めいたもの、腕時計、スマホなど雑多なものが売っている。何ともうさん臭く、しかも時折強烈な悪臭がある。足早に通り過ぎた。やはりヤバい場所なんじゃないかという気持ちが強まる。通りへと戻り意を決してある店へと入った。注文をするカウンターのような場所があったのでそこへ行き、ここで注文するのかと尋ねると、そうだと言って注文できるメニューを教えてくれたので適当に1つ注文した。確か猪肉粉という名前の料理で弾力のある肉混じりの団子と米粉の麺が温かいスープに浸かっており素朴な味だが美味い。食べていると最初とは別の店員がやってきて飲み物はいるかと聞いてくるのでライムジュースを注文する。運ばれてきたライムジュースは氷入りで水、氷には気を付ける必要があると聞いていたのでしまったなと感じ、少しだけ飲んだ。
 食事を終えて店を出るとさっきまでのような恐怖はほとんど無くなった。1つ店に入って食事をしただけでそれ以上のことは全くないのだけれども店に入り、注文し、食べるという一通りの流れを実際にやってみることで自分がこの場所においてよそ者であることは間違いないのだけれども、よそ者としてちゃんと存在しうる、許容されるということを実感できた。
 今度は最初より落ち着いて通りを歩いていると金魚すくいで捕った金魚をいれるようなビニール袋に茶色い液体を入れてぶら下げている人を何人か見た。何が入っているのかと少し凝視すると袋には茶王と記されている。どうやらお茶が袋に入っているらしい。歩いていると茶王と書かれた屋台を見つけたのでお茶を頼んでみた。ミルクが薄めのロイヤルミルクティーという感じで美味しい。店の前のテーブル席に座り飲んでいると隣のテーブル席に座った人がこちらに向って何か言っている。しかし恐らく英語ではなく聞き取れない。ん?というような反応をしていると続けて何かまくし立てる。こっちが何も返答していないのにずっとしゃべり続ける。次第にこれは一人で喋る人ではないかという疑念が浮かび、無視していると、今度は他の人に視点を合わせて喋り続ける。もしかして最初から僕に話しかけていたわけではなく今の彼の視線の先にいる人に話しかけていたのかと思い、彼の視線の先を見るが視点の先にいる人も困惑している様子だった。じきに彼は喋りながら歩き去って行った。周りの人はお茶と一緒に揚げた食パンのようなものを食べておりそれがスタンダードな組み合わせのようだったが、腹が満たされており、また注文のタイミングを逃したのでお茶だけ飲んだ。
 その後しばらくチャイナタウン周辺をぶらぶらしていると再び最初に来た門のあたりへ来た。時間はもう10時を過ぎていたころだろうと思うが、この時間帯になるとチャイナタウンの多くの店が開いていて世紀末感はもう無い。むしろ多少観光地めいた趣さえ感じた。またこの頃には日付を勘違いしていることに気づき、agodaでチャイナタウン付近に宿泊先を確保した。

 次はチョウキットへ向った。電車を乗り継いでいくとすぐに着いた。ガイドブックによればチョウキットのマーケットではフルーツが色々と買えるということだったのでそれを期待して行った。マーケットの場所を調べてすぐにそこへ向かってもよかったがとりあえず散策することにした。チョウキットはクアラルンプール中心部と比べて生活感を強く感じさせる街で、小さな店が立ち並んでいるがそれらは格安SIMの販売店、バイク販売店、どこにでもあるような安物の服を売る店といったような感じで眺めたりふらっと立ち寄って楽しむというには少し難しい。フルーツをカットフルーツのような感じで売っている店はないかと探したところ、果物を売っている店はあったもののそのまま食べられるようなものはなかった。それでも探し続けると果物を絞ってジュースにしてくれる店があった。店を見つけた喜びで早速注文をした。ケースに果物が陳列してあり、そこから好きなフルーツを選ぶとジュースにしてくれるという風になっている。パパイヤやパイナップルなど色々あった中からドラゴンフルーツを選んだ。ドラゴンフルーツは過去に食べたことがあるが、そのときの印象は水を食べているようで味気ないというもの。今回は面目躍如を期待して頼んで見た。店員はドラゴンフルーツの皮をむき適度なサイズに切り分けてミキサーに入れる。そこに水、氷、シロップ的なものを入れてミキサーを回す。少し考えればわかったはずだが、常温のフルーツからジュースを作るのだから、氷を入れることになる。またやってしまった。容易に予想できることだっただけに自分のアホさ加減にうんざりする。腹を壊す訳にはいかないので勿体ないけれども少し飲んで捨てた。味はドラゴンフルーツの味なのか、シロップの味なのかはわからないが変わった風味のある甘い味でそれほど美味しくはなかった。
 時間は昼時。歩き通しで疲れたので少し休もうと近くにあったショッピングモールに入る。7日間歩くことを考えて足を節約していかなくてはならない。モールにはイオンのスーパーが入っており、雰囲気もイオンのショッピングモールという感じ。しかし空きテナントが目立った。半分ぐらいは空いているんじゃないかというぐらい。スーパーでフルーツを見るが切ったりせずに食べられるものやカットフルーツには特に目ぼしいものが見つけられず、結局水とチョコを買った。その後モールのカフェで一杯コーヒーを飲んだあたりで少し回復してきたので、昼食を食べる場所を探しに外へ出た。しばらく行くうちに賑わっている店を見つけしかもインド系の料理らしく好みにも合いそうだったので、その店の列に並ぶ。前に並んでいる人の様子を見るとカウンターのところで注文することとショウケースに並んだ具の中から幾つか選ぶということはわかった。しかし料理名を指定してから具を選ぶのか、もしくは料理自体は固定で具を自由に選べるのかなど詳しいことは分からない。このまま自分の番が来ればもたつくことは必至なように思えた。後ろを見ると既に多くの人が後ろに並んでいる。意を決して後ろに並んでいる夫婦に注文の仕方を尋ねると親切に教えてくれた。チキン、フィッシュ、エッグの中から具を選ぶとのこと。ショウケースのチキン、フィッシュはそのまま鶏、魚を揚げたものであることが見て取れたが、エッグだというものは奇怪な見た目をしていて何かよくわからない。よく見るとタラコの皮の一部が弾けたような見た目をしていて魚卵を揚げたものなのだと理解した。エッグというと鶏卵をイメージしてしまったが確かに魚卵もエッグだ。これで一安心ではあるのだが、ショウケースには他にもオクラ、ゆで卵、真っ黒な四角い板状の何かなど様々な食材が並んでおり時折それらも皿に盛られていた。その辺りの細かいルールは分からなかったがひとまず具を一つ指定すればなんとかなるということがわかったのはかなり大きい。そして自分の番が来たので勢いよく「フィッシュ」と発するが、ん?というような反応。再度言ってみるが伝わらず。結局、店員がトングで具を一種ずつ指すのに対してイエス、ノーを言うことで伝えた。店員はまずライスをプレートに盛りそこにシャバシャバとしたカレーのような液体を3種かける、そしてライスの周りに先ほど指定した具といくつかの野菜が盛られる。
 空いている席に座り食べ始めた。他の人を眺めて何となく分かっていたことだがこの店では手で食べるのがデフォルトのようだった。一部の人はスプーンとフォークで食べていたため言えばもらえるらしいことはわかっていたけれど、ものは試しということで手で食べることにした。手で食べるのは案外難しい。手で掴む分をまとめようとしてもなかなか一つにならないし掴んだのを口に入れるのも難しい。指ごと口の中に入れるのは汚らしいが口の中に放り込もうとすると、一部が口に入らずこぼれ落ちる。苦戦しながら食べていると先程注文の仕方を教えてくれた夫婦が向かいの席に座った。夫の方がしばらく僕の食べるのを眺めたのちに、手に乗せたのを口に入れるときに親指で押し出すと良いと教えてくれた。それを聞いてなるほどと思い彼の食べ方を見てみると、指の先を揃えてその先に米を乗せて口元まで持って行き最後に親指で手に乗せた米を口の中に押し出している。助言通りにやって見ると、これはこれで上達が必要なものではあるが先よりはかなり食べやすくなった。僕は飲み物を頼まなかったのだが彼は白い半透明な飲み物を飲んでいて、バーリだと言う。バーリが何かは分からなかったがそういうものがあるのだろうと適当に納得した。そのうち店員が来て何か飲み物は要らないかと聞いてくるので彼のグラスを指して同じものをほしいと伝えた。店員が持ってきたその飲み物の味は薄甘い水という感じでまあまあ美味しい。底につぶつぶがたまっていてストローで飲むと口に入ってくる。そのつぶつぶも特段味のないもので正体は掴めない。よく見ると米のような粒だった。ここでバーリという名前を改めて思い起こすと、なるほどBarleyのことだなと合点した。底に溜まっているのは恐らく大麦だろう。そしてこの飲み物は大麦の甘酒的なものなのだろうと推測した。*1また彼が言うにはこの料理はインド料理ではなくマレーシアのローカルフードだとのこと。名前はナシ ガラとかそんな感じのことを言っていたと思うが確かではない。

 食後はチャウキットにあるという大きなマーケットを見にいくことにした。適当に歩けば見つかるかと思ったが全然見つからず、地図を見ながら向かうも向きセンサーの調子が悪く何度も頓珍漢な方向へ向かってしまったり、何故か誤った場所にマーケットがあると確信してそこへ向かったりしていると結局2,3時間無駄に歩き回っていた。結局マーケットに着いたのは16時前ぐらいで一部の店舗は店じまいを始めていたがまだまだ活気はあった。 一通り見て回ったのちパック詰めされたドリアン、マンゴスチン、ドラゴンフルーツを買った。宿泊先のチェックインの時間が近づいてきたので宿泊先に向かうことにする。特に何も考えず買ったドリアンだったが噂通り匂いが強い。買った直後にパックを直接嗅いだ際にはそれほど匂いを感じなかったが、リュックへ入れて運ぶうちにリュックから漏れ出すほどの匂いになった。そこで持っていたジップロックの袋に中身を移し二重に覆った。移した後に袋の外から匂いを嗅ぐがほとんど感じない。しかししばらくすると匂いが漏れてきた。これは宿泊先に持ち込めないと判断し道中で食べてしまうことにした。人がたくさんいる場所で食べるのは非常識だと思うので、人気がなくそれでいて安全な場所がないかと探した。そんな都合のいい場所がすぐに見つかるはずもないと思ったが案外すぐに見つかった。そこは川沿いのベンチが断続的に置かれている場所で川にかかる橋を通る人は結構いるが川沿いの通路を歩く人はそれほどいない。しかも川は薄っすらドブ臭くそれがマスキングにもなりそうだ。
 袋を開けて食べる。無茶苦茶美味い。びっくりした。手放しで称賛したい。匂いからも感じるような傷んだ瓜のような風味はある。しかしそれが減点対象にならない。例えば魚であればいくら身が美味くとも生臭ければ食べるのは困難だが、ドリアンの場合は何故か気にならない。この匂いが無ければという願望も生まれない。しかしこれだけ美味かったら人はもっと騒ぐものではないだろうか。確かに果物の王様などと呼ばれてはいるが近しい人でドリアンに関して騒いでいる人を見たことがない。多少鬱陶しい位ドリアンを勧めてくる人間がいてもおかしくはないと思うのだが。ドリアンに対する世間の熱がそうでもないものだから侮っていた。

 無事ドリアンを食べ終えたので宿へ行きチェックインした。一休みしたのち、夕飯をとるためアロー通りの屋台街へと出発した。屋台街はかなり観光地めいた雰囲気で値段も少し高めの印象。一通り見て回りつつ何を食べようかを検討する。3往復ほどした後気になった店に入った。
 ドリアンを食べたのでアルコールを控えようと思ったが他に確実に安全そうな飲み物が無かったのと単にビールが飲みたかったのとでタイガーを頼んだ。食べ物はアカエイにスパイスを塗って焼いたような料理とチキンウイングを頼んだ。先にビールが来て店員がグラスに注ぐ。ビールが一部凍っていたのか過冷却状態だったのか、よくは分からないが注いだビールの上部に微細な氷が浮かんでおりキンキンに冷えている。日中暑かったが今はそれほどでもなく、湿度はあるが風が抜けて心地いい。座っている席はアロー通りの端の方から中心を向く方向で、活気のある場面が眼に映る。
 ビールを口に含むと突き抜けるような爽快感が頭を過ぎ、そのまま冷たさで頭が痛くなる寸前まで一気に飲んだ。ただひたすらに「ビールが美味い」という感覚だけが体を支配した。後から来たアカエイもチキンウイングも滅法美味く、ビールをお代わりして最後までひたすら満足な食事をした。お金はマレーシア基準でいえば結構かかったが。

 宿へと戻り、寝る前にマンゴスチンを食べてみた。基本的には美味いが苦手な風味が混じっている。いくつか食べるうちにそれが耐え難くなり、これは苦手な果物だという結論。

写真

*1:調べたところ甘さは砂糖によるものらしい

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旅行することにした

 来月に海外旅行をすることにした。

 数年前までは旅行への興味はほとんどなかった。むしろ僕が一部の旅行者に対して持っていたイメージは「離れたところからその土地の人々の生活のほんの一端を眺め、自分の常識との差に逐一驚き、旅行者向けに整備された場所を巡り、実のところ興味があるわけでもない説明書きを熱心に読み、何か大事なことを学んだような気分になれる軽薄な人たち」というものだった。もちろん全ての旅行がこのような軽薄な異文化体験だと思っていたわけではなく、単に心地よい気候の下で過ごす、本場の料理を食べる、きれいな風景・建造物を見るなどといった気負いのないレジャーとしての旅行や、例えば建築に関する知識をいくらか持った人が建築様式の違いを実際に見に行くというような、明確な目的をもった旅行もあることは理解していた。ただこれらの旅行も、家にいるのが好きで特段その手の物に関心のない僕にとっては魅力あるものではなかった。

 旅行に対する印象が変わったのは去年に足摺に旅行に行ってから。この旅行については前にこのブログに書いたが足摺海底館を見るのを目的としたもので、ついでに足摺岬などのいくつかの観光名所を巡った。この旅行で僕がしたのは上の方で軽薄な異文化体験と書いたものと類似の、町を歩いて雰囲気の違いを感じ、丁度開催していた地元の祭りに参加し、観光地を巡る(説明書きは興味あるもの以外は読んでいないが)というもので、これまで内心馬鹿にしてきたものだが、やってみると楽しかった。実際にやってみることで見落としていた意義が見えたとかそういうことはなく、やはり軽薄といえば軽薄な行為なのだがそれはそれとして楽しかった。この件に限らずこれまで何度も反省してきたことだが、改めて自己像がいかに当てにならないものかと感じた。

 で、自分が旅行を楽しめることが分かったのだから色々行ってみようと考え、今回海外へ行くことにした。旅行ビギナーとしては国内にしてもよかったのだが、今の環境との差異がより大きい海外の方が自己像を揺さぶるような経験を多く経験できる気がして海外を選んだ。ただ日本との違いに気を向けすぎて危険なところへ行き、事件に巻き込まれたりしたらシャレにならないので、そこはビギナーとして安全そうな国を選んだ。それでも色々調べてみるとやはり日本と比べれば危険なようで、ちゃんと対策をする必要がある。様々なトラブルの事例を見ると参考になることは多いものの、正直なところどれくらい気を張るべきなのかその匙加減がつかめない。トラブルを避けようとするあまり過度に排他的になったり、慎重になったりしては経験の幅を狭めてしまう。この匙加減も今回の旅行を通じて体得したい。